「一帯一路」構想は北京が第二次世界大戦後の国際秩序を変えるために必要とする、最も強力な手段なのだ。
解説
「一帯一路」構想として知られる、中国の海外インフラ投資の巨大プログラム。これは「経済的な国策」であり、さらに正確に言えば、経済的な恐喝である。
その目的は、中国の余剰資本への新たな投資先の提供や、貧しい国々への支援に留まらない。この構想は北京にとって、世界の地政学体制を再編する最大のツールなのだ。
習近平は自身が唱える「人類共通の運命共同体」を構築するビジョンに不可欠なものとして、一帯一路構想に繰り返し言及している。
これは西洋諸国の人々の耳には聞こえの良い考えかもしれないが、その真の目的は、中国を中心とした世界の構築だ。彼らは、中国主導の世界秩序を「中華民族の偉大なる復興」に不可欠な要素と見ている。従って、一帯一路構想は、北京が第二次世界大戦後の国際秩序を変えるための、最も強力な手段なのだ。
人民解放軍退役少将の喬良は、2015年のスピーチで、一帯一路構想を「中国がアメリカを越えるための手段」だとあからさまに説明している。
また、2019年、一帯一路プロジェクトに関する中国とマレーシアの会合から漏れ出た文書には、次のようなことが書かれていた。
―― 同プロジェクトには「政治的な性質」があるが、大衆にはそれを市場原理によって動かされたものと見せるよう仕向けなければならない。
編集部のコメント
『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』は、欧米の民主主義諸国に対する中国共産党の影響力工作の実態を体系的に解説した本です。
本書は、邦訳版が2020年に刊行され6万部を突破したベストセラー『目に見えぬ侵略：中国のオーストラリア支配計画』の続編です。前作に続き、本書もドイツやイギリス、オーストラリアでベストセラーとなりました。
前著『目に見えぬ侵略』では、主にオーストラリアにおける影響力工作の実態を論じていました。それに対して本書『見えない手』では、アメリカやイギリス、ドイツ、フランスといった欧米諸国の政財界や大学において、中国共産党がどのように反対意見を抑え、自分たちの意向に沿った世論を形成しようとしているのか、その巧妙な手口を暴露しています。
著者はオーストラリアの作家で批評家のクライブ・ハミルトン氏。『目に見えぬ侵略』は単著でしたが、『見えない手』では共著者としてマレイケ・オールバーグ氏を迎えています。オールバーグ氏は、中国のデジタル政策と中国共産党の世界的な影響力を研究する人物です。
なお、本書は邦訳版が刊行されるにあたり、日本に言及した章が加筆されています。そこでハミルトン氏は、中国共産党がオーストラリアで行ってきた工作はすべて、現在の日本でも実行されていると考えている、と警告しています。
また、監訳者の奥山真司氏（国際地政学研究所上席研究員）も、本書で紹介されているような影響力工作が事実であれば、日本はそれに対する備えが十分であるとは言えない、と「監訳者解説」で述べており、この問題が日本も避けて通ることのできないものであることを示しています。
その意味で本書は、日本のビジネスパーソンにとって国際関係の情報リテラシーを向上させる、重要な1冊であるといえるでしょう。
