1998年12月号掲載
稲盛和夫の実学 経営と会計
著者紹介
概要
ビジネス環境が激変する今日、経営者に求められるのは、自社の経営の実態を正しく把握した上で、的確な判断を下すこと。そのためには、会計に精通していることが不可欠だが、これほど重要な会計が日本では軽視されている――。このように述べる稲盛和夫氏が、自らの経営哲学、そしてそれをベースにつくり上げた会計学の原則をわかりやすく解説する。
要約
会計学「7つの基本原則」
物事の判断に当たっては、常にその本質に遡ること、そして人間としての基本的なモラル、良心に基づいて判断することが最も重要である ―― 。
27歳で初めて会社経営というものに直面して以来、私はこうした考え方で経営を行ってきた。
どんな些細なことでも、原理原則に遡って徹底して考える。このことは、経営の要といえる会計の領域においても全く同じである。
会計上常識とされる考え方や慣行をすぐに当てはめるのではなく、改めて何が本質かを問い、会計の原理原則に立ち戻って判断しないといけない。
そして、会計は経営状態をシンプルかつリアルタイムで伝えるものでないと意味がない。その証拠に、急成長している中小企業が突然破綻することがある。会社の実態を即座に伝える会計システムが整っていないため、経営判断を誤るのである。
では、経営者が心がけるべき、「経営のための会計学」とはどのようなものなのか。
その基本原則は、次の7つである。
①キャッシュベース経営の原則
「キャッシュベースの経営」とは、「お金の動き」に焦点を当て、経営を行うことである。
会計が生まれた中世イタリア商人の地中海貿易では、航海が終わると収入から全ての費用を清算し、残った利益を分配していた。つまり、現金収支の計算がそのまま損益の計算となっていた。
だが現代では、年度ごとに決算を行わねばならない。そこで近代会計では、収支を発生させる事実が起きた時に収益や費用があったとして、1年間の利益を計算する。
「発生主義」といわれるこの方法だと、お金の受け取りや支払いがなされる時と、それらが収益や費用となる時とが異なるようになる。その結果、決算書の数字の動きと、実際のお金の動きが直結しなくなり、会計がわかりにくいものになった。