2004年8月号掲載
孫子とビジネス戦略 成功し続けるリーダー、企業は何を考えているのか
著者紹介
概要
ネット書店アマゾンの2001年度人文書ジャンルの全米売上第1位は、『孫子』の英訳版だという。2500年も前の書が、コンピュータや証券など、変化が激しい最先端の業界で特に好まれているというから面白い。本書は『戦争論』や、マイケル・ポーター、フィリップ・コトラーなど現代ビジネス界のカリスマの持論と比較して戦略を論じている点がユニークだ。
要約
孫子の戦略、2つの原理
約2500年もの昔に記され、多くの歴史的名将や現代の経営者に活用され続けている『孫子』。
その理論体系は、「失敗した時にやり直しができるか否か ── 試行錯誤できる度合い」と「想定するライバルの数」という2つの基軸から、ほとんどを導き出すことができる。
原理1:失敗が許されるか否か
失敗に学ぶ試行錯誤から成果を勝ち取る ── 。多くの成功した企業がこれを実践している。
だが、『孫子』が前提とした原理は、「戦争とは基本的にやり直しが利かないもの」という考え方だ。そこでは1度の敗北が致命傷になりやすく、失敗から学んでの再チャレンジも期待できない。
では、そうした状況において、致命傷となる失敗を避けるためにはどうすればいいのか?
『孫子』は3つのポイントを指摘している。
- ①ライバルと自分の実像を事前に把握する(彼を知り己を知れば百戦して殆うからず:敵を知り己を知るならば、絶対に敗れる気遣いはない)
- ②勝てる算段がなければ戦わないこと(勝算なきは戦わず:勝算がなければ戦わない)
- ③戦いを泥沼化させないこと(兵は拙速を聞く:短期決戦こそ国益にかなう)
①は『孫子』の中でも特に有名だ。では、もし逆に、自分と敵とを知り損なったらどうなるか?
事業ならば「予測したほど消費者受けが良くなかった」「思わぬライバルの値下げ攻勢に遭い、売上を落とした」などの結果を生むだろう。現実認識や、ライバル・自分の実力に対する「見込み違い」が、失敗の要因になるわけだ。
この「見込み違い」を極力減らすためには、徹底して「彼を知り己を知る」必要がある。
そこでもし、今の自分の力では敵に勝てないことが判明した場合は、戦いを避けるしかない。退却や融和も、戦略的な判断の1つである。
さらに、戦いに入ってから勝てそうにないとわかった場合も、自軍の負けを最小限に止め、致命傷に至る前に退く ──「拙速を聞く」のが、『孫子』的には正しい選択肢になる。