2007年1月号掲載
商人のこころ
著者紹介
概要
著者は、昭和38年に婦人服専門店「鈴屋」に入社して以来、小売業の世界一筋に歩んできた人物。その生粋の商人が言う。かつて息づいていた「お客様の利益を最優先に考える」という商売の哲学が今日では失われ、それこそが百貨店や量販店、専門店が長く苦境にある原因だと。お客にとって魅力的な、小売業本来の姿とは何か。それを“商人の心”を軸に探っていく。
要約
商売に「志」は不可欠
今、小売業界は「先の見えないトンネル」に入り込んでいる。百貨店、量販店、専門店の多くが苦境を抜け出すための妙案もなく迷っている。
小売業が苦しいのは、お客が少ないために売上が上がらないからだ。では、なぜお客が少ないのか? 店に、それだけの魅力がないからである。
かつて小売業には「お客の利益を最優先に考える」という商売の哲学が生きていた。
だが、高度成長の時代、小売業も拡大主義に走り、本来の姿を見失った。そして、バブル経済が崩壊。一転して景気が冷え込むと、今度は生き残るために、無節操な販売合戦に拍車がかかる。
お客も「しょせん、小売業なんてそんなもの」と最初から信頼していない。お客と小売業に携わる者との間に、何の心の通い合いもない —— 。
「半額セール」という名の目くらまし商法
ある大手量販店のテレビコマーシャルで、女性の声が「全品半額セール」と叫んでいる。主婦が早速その量販店に出かけ、あれこれ買い込んだ。
ところが、レジにいくと半額にならない。文句を言うと、店員は「半額になるのはセーターだけ」と答えた。帰宅した主婦が改めてコマーシャルを見ると、確かにテレビ画面の下に小さな文字で「セーターのみ」とあった。
近頃はこうした商売が目につく。売上拡大のため、ダマシに近い方法で買わせようとするのだ。
よくあるのが、本当は問屋で1万円で仕入れた商品を「本来は3万円ですが、今日は特別に1万5000円でサービスします」と売りつけるやり方だ。
このように、商品の価格が単なる便宜上のものになったのは、昭和40年代後半、渋谷の繁華街に「渋谷パルコ」がオープンした頃からだろう。
渋谷パルコは、従来では考えられない“禁じ手”を使った。従来は8月のシーズンの終わり頃に行っていた水着のバーゲンセールを、7月の夏シーズン当初にやったのだ。