ウィキノミクス　マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ

ウィキノミクスという新世界

　トロントに本社を置く金鉱山会社ゴールドコープは窮地に陥っていた。50年間、掘り続けた鉱山がもうすぐ終掘を迎える。新たな金鉱床を発見できないと鉱山は閉鎖となり、倒産するのだ。

　同社は探査を続けたが、新たな金鉱脈は見つからなかった。そんな時、ある考えがCEOの頭に浮かんだ。社員が金鉱脈を発見できなくても、他の人なら見つけられるかもしれない。その誰かを見つけるために、探査プロセス、地質データを公開すべきなのかもしれない…。

　鉱業界では、地質データは最も貴重な情報として厳重に守るものである。にもかかわらず同社は、全ての情報をウェブサイトで公開し、金鉱脈を見つけるための優れた方法を提出した人に、総額57万5000ドルの賞金を与えると発表した。

　このニュースはすぐに広まり、15カ国、1000人以上が地質データと格闘し始めた。

　その後、数週間で世界中から提案が寄せられ、110カ所の鉱脈の存在が示唆された。そして、その80％で実際に大量の金が発見された —— 。

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　今、技術やビジネス、そして世界が根底から変化しつつあり、経済への参加の形が大きく変化する新しい時代が幕を開けようとしている。

　新しい参加型の“マスコラボレーション”により、ついに財やサービスの創出や生産、マーケティング、流通の形式が変化するところまできた。

　それが可能になったのは、情報技術が普及して、普通の人々がコラボレーションに参加できるようになったからだ。

　すでに何百万もの人々が自発的に参加してコラボレーションを行い、世界的な優良企業に匹敵する財やサービスを生み出している。

　これは「ピアプロダクション」「ピアリング」と呼ばれる形態で、無数の人と企業がオープンなコラボレーションを通じて、業界に革新や成長をもたらすことを指す。