2007年8月号掲載
資本開国論 新たなグローバル化時代の経済戦略
著者紹介
概要
工業製品ではなく、労働と資本が直接国境を超える新しいグローバリゼーションが今、世界に広がっている。その流れに乗り遅れ、凋落傾向にあるのが日本だ。そんな日本を活性化するにはどうすればよいのか? その問いに、著者は“資本開国”を提言する。すなわち外資を積極的に受け入れ、経営を競争にさらし、強い企業を育てる、それが唯一の経済活性化策だと。
要約
企業栄えて家計滅ぶ
企業業績は目立って改善しているのに、家計の所得が伸びない。そのため消費も伸びない —— 。これが現在の日本経済の大きな問題である。
国民経済計算に示される国民所得分配の推移を見ると、この傾向がはっきりと確かめられる。
すなわち、企業所得は増加傾向にあり、特に2000年度以降の増加が目覚ましい。しかし、賃金・棒給は、1998年度以来、04年度まで絶対額でも減少している。
減少した賃金所得
なぜ、このような現象が発生するのか?
賃金が伸びなかったのは、表面的には企業が人員を整理し、給与を抑えたからだ。さらに、正規雇用を減らして非正規雇用を増やしたからである。
ただし、これを「労働者を切り捨てる企業戦略の結果」と単純化することはできない。その背後には、グローバリゼーションによって、賃金が世界的に平準化していく過程があるからだ。
この賃金平準化をもたらした最大の原因は、90年代以降に生じた世界経済の構造変化である。特に重要なのは、中国などの旧社会主義経済圏に閉じ込められていた膨大で安価な労働力が、冷戦の終結により市場経済圏に取り込まれたことだ。
これによって、従来から市場経済圏にあった先進工業国の賃金が下落しているのである。
マイナスになった家計の純利子所得
国民所得分配の注目すべきもう1つの変化は、家計の利子所得が顕著に減少したことだ。
家計の受取り利子を見ると、90年度には38.5兆円だったが、その後一貫して減少し、05年度には約3兆円になった。他方で家計の支払い利子は、80年度には受取り利子の10分の1程度だったが、ほぼ一貫して増加し、05年度では6.5兆円である。
この結果、家計のネットの利子所得は、05年度にはマイナス約3.5兆円となった。