2009年9月号掲載
目に見えない資本主義 貨幣を超えた新たな経済の誕生
著者紹介
概要
今回の世界経済危機の中で、我々が深く考えるべきは“対症療法”でなく、「これから資本主義はどう変わっていくべきか」ということだ ―― 。資本主義の未来について、田坂広志氏が語る。その考察によれば、今後、経済原理に「5つのパラダイム転換」が生じ、貨幣という尺度で測れない、信頼、文化といった「目に見えない価値」を重視する社会が訪れるという。
要約
5つのパラダイム転換
2009年の世界経済フォーラム。通称、ダボス会議は、まさに世界経済危機の真っ只中に行われたこともあり、世界の注目を集めた。
各国の首脳、経済学者、有識者らが熱心な議論を行ったが、残念なのは、議論の多くが、現在の世界経済危機をどう解決するかに集中したことだ。
「これから資本主義に何が起こるのか」という議論はあまり耳にできなかった。
今回の世界経済危機は、単なる不良債権の問題ではない。それは、現在の「グローバル資本主義」に内在する本質的な危機であり、その資本主義の在り方を問うことなく、対症療法を行うだけでは、いつかまた同じ問題を引き起こす。
従って、語らねばならないのは、これから資本主義はどのように変わっていくべきか、である。
では、なぜ経済学者らは「資本主義の進化」をあまり論じないのか? それは、資本主義の進化が従来の経済学の「土俵」――「貨幣経済」を超えて起こっているからだ。そのため今、経済原理に生じているパラダイム転換が見えないのである。
では今後、資本主義はどう進化するのか。その進化を促す経済原理のパラダイム転換とは何か。
それは、次の「5つのパラダイム転換」である。これらは、「目に見える経済」から「目に見えない経済」へのパラダイム転換をもたらす。
①「操作主義経済」から「複雑系経済」へ
第1のパラダイム転換は、「操作主義経済」から「複雑系経済」への転換である。
複雑系経済とは、企業や社会などのシステムが極めて高度な複雑系になった経済のことである。
複雑系とは、端的に言えば「生命的なシステム」のことだ。全てのシステムは、複雑になると、あたかも生命を持っているかのように挙動する。