2009年12月号掲載
記憶はウソをつく
- 著者
- 出版社
- 発行日2009年10月5日
- 定価836円
- ページ数208ページ
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著者紹介
概要
最近の研究により、人間の記憶の不確かさが明らかになっている。想像しただけのことを体験したと思い込んだり、思い出す時の心理状態によって記憶が変わったり、といったことが簡単に起きるのだ。著者は、冤罪事件にはこうした記憶の性質が深く関わっていると指摘。冤罪事件や心理実験など、具体的な事例を挙げ、記憶が捏造され、変容するメカニズムを解説する。
要約
偽の記憶は簡単に植えつけられる
有名な冤罪事件の1つに、甲山事件がある。
兵庫県西宮市の知的障害児施設で、2人の園児が浄化槽から遺体で発見されたこの事件では、殺害の被告とされた保母が、23年間被告の座に置かれながらも、ついに無罪判決を勝ち取った。
取り調べの際、いくら犯行を否定しても聞き入れられず、自白を強いられた彼女は、絶望感から「私がやりました」と言ってしまったという。
その際、アリバイを証明できない空白の15分について「思い出せない」と言うと、「思い出せないのは無意識にやったからだ」と取調官から言われ、そのうちに自分が無意識のうちに園児を殺してしまったような気がしてきた、というのだ。
自分はやっていないのに、「自分がやった」という加害記憶が捏造されることが本当にあるのかと、疑問に思う人もいるかもしれない。
だが、そうしたケースは実際に起こっているし、そのメカニズムは心理学的にも解明されている。
幼児虐待は本当にあったのか
記憶の捏造ということで思い出されるのは、北米に非常に多く報告されている幼児期の被虐待経験の信憑性の問題だ。
米国やカナダは、一般に「多重人格」と言われる「解離性同一性障害」の発生数が極めて多い。
その最も重要な発生要因とみなされているのが、幼児期の被虐待経験である。
過酷な被虐待経験を抱えて生きていくのは辛い。そうした忌まわしい経験を意識せずに日常生活を送るための方法が、人格の解離だというわけだ。
つまり、思い出すのも嫌な記憶を別人格の中に封じ込めておくことで、普段はその記憶なしに平穏に暮らせるのである。