2011年5月号掲載
巨象も踊る
Original Title :WHO SAYS ELEPHANTS CAN'T DANCE?:INSIDE IBM'S HISTORIC TURNAROUND
著者紹介
概要
崩壊寸前だったIBMを見事復活させたルイス・ガースナー氏が、改革の経緯、そして経営哲学を記した書である。歴史と伝統を誇る巨大企業をどう改革したか、わずか数年で業績を回復させた経営手法も含め、その一部始終が語られている。巻末には、社員に送った数多くのメールを収録。彼がいかに情熱を持って企業文化の変革に取り組んだか、その文面からも窺える。
要約
IBMの再生に向けて
IBMの大型機の技術はもう古い、IBMが業界を支配することは二度とない ―― 。1990年代の初め頃、マスコミやコンピューター関連の権威者がIBMの暗い未来を論じていた。
事実、IBMのメインフレーム部門の売上は、90年の130億ドルから93年には70億ドル以下に落ち込むと予想されていた。
そんな中、93年に私はジョン・エイカーズの後を受けて、IBMのCEOに就任することになった。
就任の記者会見の後、本社経営会議に出席した。その席で、私は40分以上も話し続けた。
まず、この仕事を引き受けた理由について話した。自分が望んだからではなく、米国の競争力と経済の健全性を維持するために重要な仕事を引き受けるよう依頼されたからだ、と説明した。
その時には話さなかったが、IBMの経営が破綻すれば、1つの会社が消えたというにとどまらない影響があると感じていたのだ。
そして、次のようなことを訴えた。
「IBMが世間で言われているように官僚的なのであれば、官僚体質を早急に取り除こう」「社員が多すぎるのであれば、適性規模にしよう」
経営哲学と経営方法
さらに、私の経営哲学と経営方法を要約した。
- ・手続きによってではなく原則によって管理する。
- ・我々がやるべきことの全てを決めるのは市場である。
- ・品質、強力な競争戦略、チームワーク、ボーナス、倫理的な責任の重要性を確信している。
- ・問題を解決し、同僚を助けるために働く人材を求めている。社内政治を弄する幹部は解雇する。
- ・私は戦略の策定に全力を尽くす。それを実行するのは経営幹部の仕事だ。悪いニュースを隠さないように。私に問題の処理を委ねないでほしい。問題を横の連絡によって解決してほしい。
- ・速く動く。間違えるとしても、動きが遅すぎたためのものより速すぎたためのものの方がいい。
- ・組織階層は私にとって意味を持たない。会議には地位や肩書にかかわらず、問題解決に役立つ人を集める。委員会や会議は最小限に減らす。
- ・私は技術を完全に理解しているわけではない。技術を学ぶ必要はあるが、完全に理解するようになるとは期待しないように。従って、部門責任者は、技術の言葉をビジネスの言葉に翻訳する役割を担わなければならない。
最後に、各事業部門の責任者に、顧客のニーズ、競争環境分析、技術の見通し、長期と短期の主要な問題等を報告書にまとめて提出するよう求めた。
そして、こう呼びかけた。「会議室を出て、会社を経営しよう」。