2011年7月号掲載
利他のすすめ チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵
著者紹介
概要
人間が生きる上で、最も大切なのは「人の役に立つ」こと ―― 。ひょんなきっかけで知的障害者を雇い、今や社員の7割が知的障害者。そして、チョーク製造で国内シェアNo.1。そんな企業の会長が、知的障害者と働く中で学んだ、幸せに生きるための根本原理、「利他の心」を説く。「自分が、自分が」となりがちな現代人に、貴重な気づきを与えてくれる1冊である。
要約
人の役に立つことこそ、幸せ
私が会長を務める日本理化学工業は、父が1937年に創業した小さなチョーク工場である。大学を卒業後、23歳でこの会社に入社した。
そして、ひょんなきっかけで、2人の知的障害を持つ少女を雇用することになった。
当初は、それが人生を変える出会いだとは露ほども思わなかった。しかし、彼女らとともに働く中で、私は少しずつ変わっていった。
「人はなぜ働くのか?」「人の幸せとは何か?」といった根源的な問いに向き合うようになるとともに、徐々に障害者雇用に本腰を入れるようになったのである。
それから約50年。今では、社員の約7割を知的障害者が占めながら、業界トップシェアを維持する会社に育て上げることができた。
私は今、自分の人生に心からの満足を感じている。そして、この幸せな人生へと導いてくれたのが、知的障害者である。
人が生きる上で最も大切なこと。それは「人の役に立つことこそ、幸せ」の一言に尽きる。すなわち、「利他」こそ幸せに生きる根本原理なのだ。
このことを私に教えてくれたのは、知的障害者に他ならない ―― 。
お釈迦様の知恵
遠い昔のこと。お釈迦様が生きていた時代、祇園精舎に周利槃特という人がいた。この人は何を聞いても忘れる人で、今であれば「知的障害者」と呼ばれていたかもしれない。
一方、周利槃特の兄、摩訶槃特は頭がよく、お釈迦様の弟子の間でも一目おかれる存在だった。
周利槃特に仏門へ入ることを勧めたのは兄だった。だが、弟はなかなかお経を覚えられず、騒動ばかり起こした。そんなある日、摩訶槃特が「お前がいては迷惑がかかるばかりだから、ここを去れ」と言って、周利槃特を追い出してしまった。