2011年8月号掲載
創発人材をさがせ ―― イノベーションを興す
著者紹介
概要
1990年のバブル崩壊後、コンプライアンス等の強化が進み、何事もマニュアル化するという管理主義が企業に広がった。それに伴い、生まれづらくなったのがイノベーションだ。こうした企業環境の中、どうすればイノベーションを興せるのか。キヤノンの元研究所長がその方法 ―― 埋もれたイノベーターを見つけ、その能力を活かすための組織変革について解説する。
要約
こんな創発人材が身近にいませんか
企業が成長し発展するためには、人々の生活を快適にし、困った人を助け、社会を改善する商品やサービスをつくり出していかねばならない。
それには、研究や開発部門で新製品や新事業を提案し、つくり出せる人材が必要になる。その役割を担う人材を、「創発人材」という。
創発とは、主に複雑系の科学で用いられる用語である。本来はふらふらしている局所的な複数の細胞が、相互作用によって複雑に組織化することで、環境変化に適応する高度な組織・システムを生み出す現象・機能を意味する。
このような創発を組織に生み出す人材が、創発人材である。
創発人材はふらふらしていて「いい加減に」生きているように見える。だが、創発性は脳がふらふらしていていい加減だからこそ生まれるのだ。
ふらふらして曖昧なものを「ゆらぎ」というが、外部の環境を取り込んで動くには、ふらふらしている方がよいのである。
あなたのそばにいる創発人材
創発人材は、どんな組織でも、ある割合で普通に生息している。「少数派の生き物」だが、あなたの近くにいる可能性は高い。
環境が整えば抜群の創発力を発揮するが、普通は目立たず、評価もされない。
彼らはいわば、醜いアヒルの子なのだ。周囲から疎外されやすく、傷ついている場合や本性を隠している場合が多い。自分でも美しい白鳥になれることに気づいておらず、引きこもりがちだ。
そんな彼らを勇気づけ、自信を持ってアイデアの卵をどんどん生んでもらい、それを育て羽ばたかせる。それが、イノベーションを起こす上で最も大切なのである。
世の中のイノベーションは、生まれた時から素晴らしい白鳥ではない。生まれた時は、醜いアヒルの子なのである。