2012年1月号掲載
ソーシャルシフト これからの企業にとって一番大切なこと
著者紹介
概要
誰もが情報を発信・共有できるソーシャルメディア。その普及によって、顧客の共感を得れば、それは波紋のように広がるようになった。一方で、不正な行為は社員の手で告発され、拡散されていく。本書は、こうした新しい時代の「あるべき企業像」を説くもの。ソーシャルメディア時代に即したマーケティングやマネジメントのあり方などを、事例を交え詳述する。
要約
信頼の絆が加速する共感の時代
2011年3月11日。日本は、未曽有の国難、東日本大震災を経験した。この震災は、日本人の考え方や行動に大いなる変容をもたらした。
ある調査によると、震災後、日本人の56%はシンプルライフを望むようになり、48%の人々が家族や友人との関係性を見つめ直している。
やはり非常時に頼りになるのは家族や友人だ。そんな実感から、人々は信頼の絆を再認識するようになったのだ。
金融危機が気づかせてくれた「お金より大切なもの」
こうした生活者の心理変化は、実は数年前から世界的な潮流となっている。特に明確なターニングポイントとなったのは08年の金融危機だった。
それまで世界を覆っていたのは、際限のない利益追求を正義とするグローバル資本主義だ。そこでは、資本をいかに効率的に生み出せるかで人間の価値が判断された。貧富の差は広がり、人間関係は薄まっていった。
そんな中、金融危機が世界を襲った。それ以来、多くの人々が行き過ぎた資本主義に疑問を持ち、新しい価値観を模索するようになった。
ほぼ時を同じくして、Facebookが世界中を席巻し始める。毎月2000万人のペースで利用者が増加。そしてソーシャルメディアは、退廃していた人々の心を緩やかにつなぎ始めた。
友人と常につながっている感覚、趣味を同じくする人々との出会い…。それらは過当競争や孤独感に苛まれていた人々に、共感や信頼、心の豊かさといった、古くて新しい価値観をもたらした。
マーケティングの概念も大きく変化する
人々の価値観の変化は生活者の行動を変え、必然的にマーケティングに大きな変化をもたらす。
昔のマーケティングは「製品が中心」だった。良いモノを作れば売れる時代、どのように製品を販売するかに力点が置かれていた。だが、これからのマーケティングは「人間が中心」だ。
生活者はソーシャルメディアによる対話交流の場を得て、能動的な存在となった。商品の使用感、電話での顧客応対、店頭での顧客サービス、購入後のトラブルサポート…。ありとあらゆる顧客体験が日常的にシェアされる。そして、企業の不誠実な言動は告発される透明性の時代が訪れた。