2012年3月号掲載
ギリシャ哲学の対話力
著者紹介
概要
「言わぬが花」という言葉もあるように、日本ははっきり物を言わない社会である。一方、西洋の人々は自分の意見を積極的に言う。その根底にあるのが、古代ギリシャに端を発する対話の作法だ。一定のルールの下、相手を言い負かすのではなく、スポーツのように対話を楽しむ。そんな古代ギリシャの対話のワザを、哲学の祖、ソクラテスらを例にとりつつ披露する。
要約
対話にはルールがある
NHKテレビで放送されて人気を博した、マイケル・サンデル教授の『ハーバード白熱教室』。
この講義では、「正義とは何か」という哲学的なテーマの下、サンデル教授は学生たちに様々な問いかけをする。意見を出させ、さらなる問いを出し、また考えさせ、ある方向へと導いていく。
この手法は、かのソクラテスの「問答法」に範をとったものである。
対話型講義というのはシナリオがないので、相手に柔軟に対処しつつ、本筋を見失わないようにと、場をマネジメントする能力が求められる。
そういう意味では、『ハーバード白熱教室』のオープンな空気感は、サンデル教授の柔軟な場の運営力によるところが非常に大きい。
同時に、「知と対話」に対する西欧社会の伝統も感じる。活発な対話の中で学ぶことを楽しむという回路が、学生たちに根づいているからである。
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以前から残念に思うのは、日本人は意見が対立して論争になると、感情的になりがちなことだ。一方、欧米の討論を見ていると、感情的にならないように気をつけているのを感じる。
あくまでも論理的な思考力と、抑制の効いた言葉づかいで議論を闘わせるものだというルールが、しっかり共有されているのである。
これは古代ギリシャ時代から受け継がれてきた西洋の文化的遺産といえる。
哲学の祖、ソクラテスはソフィスト(知恵のある者)との対話の中で、意見が対立して論争になっても、それはあなたの意見への反論であり、あなたという人格の否定ではない、と言っている。