2012年4月号掲載
資本主義以後の世界 日本は「文明の転換」を主導できるか
著者紹介
概要
リーマン・ショック、ユーロ危機、拡大する所得格差、そして地球環境の破壊…。様々な問題を抱え、閉塞状況に陥った今日の資本主義を考察し、未来を展望した書である。資本主義の歴史を概観しつつ、その行き詰まりの原因を解き明かし、いずれ「資本主義以後の世界」が確実に訪れると指摘。その時には、西洋近代思想の根本的な価値観の転換が必要だと説く。
要約
資本主義は「自壊した」のか
私は3年以上前、『資本主義はなぜ自壊したのか』を出版し、グローバル資本主義には次の「3つの根源的欠陥」があることを指摘した。
- ①グローバル資本の国境を越えた移動が、世界経済を不安定化する。急激かつ巨額の資本流出入がバブル発生とその崩壊を生み出し、絶えざる金融危機を生起させる。
- ②資本主義の目的は「あくなき資本の自己増殖」である。それを実現するためには、「自然の搾取」が不可欠であり、そのことが地球環境の汚染・破壊を加速させる。
- ③グローバル競争の結果、富の偏在、所得格差の拡大が起こる。そのため、多くの国で「中流階層」が消失し、社会の二極化現象が起こる。
これら3つの根源的欠陥は、いずれも是正されるどころか、逆にますます深刻化している。
ユーロ危機に見る欧米経済の弱体化
今ヨーロッパを揺るがせているギリシャ危機は、同国で2009年10月に政権交代が行われ、旧政権の財政赤字の隠蔽が明らかになったのが発端だ。
それまでギリシャの財政赤字はGDPの4%程度と発表されていたが、実際は13%近くに上り、債務残高もGDPの158%になることが判明した。
それをきっかけにギリシャ国債は暴落し、金融危機が再燃した。
ドイツ、フランスといったEUの中核国やIMF(国際通貨基金)などが、何とか金融破綻を回避しようと努めているが、世界の覇権国の座を維持してきた米国ですら、救済資金を出す余裕はない。
それどころか、格付け会社スタンダード&プアーズが、世界で最も安全とされてきた米国の国債格付けを「AAA」から「AA+」に引き下げるという前代未聞のことが起こってしまった。
「ヘリコプターマネー」も効かない米国の苦悩
米国政府はリーマン・ショックの衝撃から立ち直るべく、大手金融機関に巨額の公的資金を注入した。また、景気回復のために、巨額の財政出動を断行した。大胆な金利引き下げ、金融緩和も断行した。ところが、その効果が一向に表れない。
そこで10年11月、米国政府は中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)に新規発行国債を「直接引き受け」させることにした。
FRBは、6000億ドル(約48兆円)の米国債を、市場を経由せずに直接政府から購入することを決定した。
通常、政府が国債を発行して財政資金を調達する際は、発行した国債を市場に売りに出す。市中に売り出す国債なら、市場の資金を国が吸収するから、マネーサプライ(通貨供給量)は増えない。