2013年10月号掲載
ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言
Original Title :Ten Rules for Strategic Innovators
著者紹介
概要
基盤のがっちり固まった組織が、新たな分野に進出するのは容易ではない。既存事業が何かと足かせになる。では、どうすれば新規事業を成功に導けるのか。本書が提案するのは、「既存の強みを維持しながら、画期的な事業を成功させる」という方法。従来の常識・経験を捨て、既存事業とのつながりを1~2点に絞り、試行錯誤を続ければ、爆発的な成長も可能だという。
要約
「戦略的イノベーション」とは何か?
今日の市場では、過去とは質の違う変化が起きている。
デジタル新技術はサービス産業を大きく変えつつある。ナノテクノロジーと遺伝子工学は半導体産業や製薬産業に革命をもたらしている。
また、先進国で高齢化が進み、途上国で生活水準が上がるにつれて、消費者のニーズも急速に変わっている。
物事の前提は変わり、競争優位性は容赦なく模倣されていく。それに対応するため、有力企業は「戦略的イノベーション」に乗り出している。
戦略的イノベーションは、ビジネスを定義する3つの根本的要素 ―― 顧客は誰か、彼らにどんな価値を提供するのか、それをどうやってもたらすのか ―― の少なくとも1つに取り組む、新たな試みでなければならない。
例えば、90年代にIBMがハードウェアとソフトウェアの販売から、ソリューション全般の提供へと軸を移した。これは、顧客に提供する価値を一新した好例である。
こうした戦略的イノベーションを推し進めていくのは、「戦略的実験事業」だ。それを通じて、先例のない事業の実現性を試すのである。
例えば、2003年、ウォルト・ディズニー・カンパニーは、無線端末を使った映画配信サービス「ムービービーム」を売り出した。常時100本もの映画が配信され、契約者は自宅でゆったりと映画を楽しめる。これは、通常のビデオレンタル店、DVDの宅配システムを脅かすものだ。
この戦略的実験事業の特徴としては、例えば、次のような点が挙げられる。
- ・新興市場や、範囲があいまいな市場を狙う。
- ・他社に先駆けて、まだ収益モデルも確立していないうちに立ち上げた事業である。
- ・新たなナレッジや能力開発を伴う。
- ・様々な不確実性を伴う。見込んでいる顧客層のあてが外れ、商品が空振りに終わることもある。
こうした戦略的実験事業を行う新規事業部を「ニューコ(NewCo)」と呼ぶ。そして、それに緊密に関係する既存の事業部門を「コアコ(CoreCo)」と呼ぶ。
上記の戦略的実験事業を成功させるためには、「同じ会社に新旧の事業が共存するという不自然さから発生する独特の課題」に応えねばならない。