2015年11月号掲載
欧州解体 ドイツ一極支配の恐怖
Original Title :THE TROUBLE WITH EUROPE:Why the EU Isn't Working - How It Can Be Reformed - What Could Take Its Place
著者紹介
概要
現在、28カ国が加盟する欧州連合(EU)。創設当初は経済的成功を収めたかに見えたが、今や機能不全に陥りつつある。加盟国の経済成長率の低迷、ギリシャのユーロ離脱の可能性が高まるなど、問題が山積みだ。一体、EUはどこで道を誤ったのか。これからどうなるのか。英国人エコノミストが、EUや統一通貨ユーロの問題点、今後EUが採るべき政策などを示す。
要約
EUは経済的に成功したのか?
欧州連合(EU)は、決断の時にある。
EUは今日の世界にあっては機能不全の構造体だ。根本的な改革、もしくは解体が必要である。
初期は成功、近年は停滞
当初、EUは十分な成功の兆候を示していた。欧州共同体(EC)発足後の最初の20年間は、非常に力強い経済成長を遂げた。
ECが創設された1957年から英国が加盟した1973年までの間に、ドイツは年率で平均4.7%、フランスは5.2%、オランダは4.6%、イタリアは5.3%の経済成長を遂げている。EC創設国(上記4カ国にベルギーとルクセンブルクを加えた6カ国)全体では、年平均4.9%の成長率だった。
だが、ここ20年ほどは、大半のEU加盟国の成長が期待を下回っている。自国の過去の経済成長率に追いつけないばかりか、米国や、同じEUの一員となった英国にさえ遅れを取っているのだ。
1980年から2007年までの期間、年平均の経済成長率はフランス2.1%、ドイツ1.6%、オランダ2.4%、イタリア1.8%だった。それに対し、英国は2.4%、米国は2.9%となっている。
期間を2014年まで延長し、英国が特に打撃を受けた金融危機の影響を織り込んでも、EU平均を英国が上回る。その期間を通じ、EC創設国の成長率は年平均1.6%、英国は2.3%だった。
域内と域外の貿易
EUの経済的パフォーマンスが貧弱なのは、誤った政策の結果である。
EUが経済に及ぼす直接的な影響のうち、最も重要度が高いのは貿易に関することだ。
EUは域内では自由貿易を行うが、域外の国々には共通の貿易制限(対外共通関税)を課す関税同盟になっている。関税同盟は域内の貿易を創出する一方で、域外の国との貿易を回避させる。
このため、世界の貿易は中国などの新興市場を急成長させたグローバル化のプロセスによって拡大したが、EUはその世界全体の貿易の伸びから得られる膨大な利益を十分に取り込めていない。