2016年6月号掲載
Who Gets What マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学
Original Title : Who Gets What - and Why:The New Economics of Matchmaking and Market Design
著者紹介
概要
世の中、自分が選ぶだけでなく、自分も選ばれる必要がある。例えば、就職先や進学する大学、結婚の相手もそうだ。このような、お互いの「選択」が必要な場で、どうすれば最適・効率的な「マッチング」(組み合わせ)が実現できるのか? 様々なマッチングをうまく機能させる方法を、ノーベル経済学賞受賞者が説く。
要約
「マッチング」とは
ユダヤ教の口伝律法『タルムード』の中に、こんな物語がある。
万物の創造主は天地を創造された後、いったい何をなさっているのですかと、誰かがラビ(ユダヤ教の宗教指導者)に尋ねる。ラビはこう答える、「縁結び(マッチメイキング)を続けているのだ」と。物語では続けてマッチメイキング ―― この場合は円満な結婚 ―― がいかに重要で、かつ難しいかが語られる。
「マッチング」とは、私たちが人生の中で、自分が選ぶだけでなく、自分も相手に選ばれなければ得られない多くのものを手に入れる方法を指す経済学用語だ。
イェール大学やグーグルに、「今から入学します」「これから働きに行きます」と一方的に宣言してもどうにもならない。結婚相手を勝手に選べないのと同じで、自分が相手を選ぶだけでなく、選んだ相手によって自分も選ばれる必要がある。
こうした求愛と選別は、構造化されたマッチメイキングの環境、つまり何らかの応募と選考のプロセスを通じて行われる場合が多い。
大学卒業後、誰が最高の仕事に就くか、昇進の機会に最も恵まれるか、さらには、どの末期腎不全患者が希少な移植用臓器を提供されるかも、マッチングによって決められる。
マッチメイキング
マッチングは市場を通じて行われる。そして市場は、欲求から始まる。買い手と売り手、学生と教師、求職者と雇用主が市場に集まることによって、欲求がかたちづくられ、そして満たされる。
最近まで経済学者はマッチングをさほど考慮に入れず、コモディティの市場に焦点を当てることが多かった。この種の市場では、「誰が何を手に入れるか」は価格のみによって決まる。コモディティ市場では、何を手に入れるかを決めるのは自分で、お金さえあればそれを得られる。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)で株を買う時は、自分が売り手に選ばれるかどうかを心配しなくていい。同様に、売り手が誰かに売り込みをかけることもない。価格が全ての役割を担い、需要と供給が一致する価格で売り手と買い手を引き合わせる。誰が何を手に入れるかは価格で決まる。
しかし「マッチング市場」では、価格はそうした役目を果たさない。もちろん、大学に行くにはお金がかかり、誰もがそれを払えるわけではない。だがそれは、大学が学費を払える学生の数と大学が受け入れられる学生の数がちょうど一致する価格、つまり需要と供給が一致する価格にまで学費を引き上げているからではない。
むしろ人気大学は、多くの学生に志望してもらえるよう、できる限り授業料を抑えている。また大学はしゃれた施設、奨学金などを提供して、学生の歓心を買わなくてはならない。同様に、仕事の世界でも、雇用主がよい待遇を提示する一方で、求職者は熱意や資質をアピールする。