2016年7月号掲載
逆オイルショック バブル連鎖経済の終焉が日本経済を襲う
著者紹介
概要
1970年代のオイルショックと真逆の現象が、今起きている。「逆オイルショック」、原油価格の急落だ。原油価格の下落は、輸入国にはプラスの面もある。だが、世界の株式・為替市場の不安定化を招くなど、リーマンショック以上の衝撃を世界経済に与えかねない。こう述べる著者が、“世界経済における一大事”の実態を解説する。
要約
「逆オイルショック」とは何か
2016年の年初以降、世界の株式や為替などの金融市場が一時的に不安定な展開になった。
その理由は1つではなく、いくつかの要素が絡み合っている。中国の株価の下落、人民元の基準値の引き下げ、米国の利上げや景気動向に対する懸念、原油価格の下落、日本銀行による「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入などだ。
中でも、金融市場に最も重大な影響を与えた要素は、原油価格の急落だ。
原油価格(WTI原油先物価格)は、2014年夏には1バレル100ドル以上だった。ところが、2016年に入って一時、1バレル30ドルを割るまでに下落し、その後も不安定な状況が続いている。まさに「ショック」と呼ぶにふさわしい下落だ。
それは、1973年に発生した急速な原油価格の上昇=オイルショックと真逆の動きであり、「逆オイルショック」と呼ぶことができる。
低迷する原油の需要
逆オイルショックとは、原油価格が急落することで起きる大規模なマイナスの経済現象を指す。
逆オイルショックが発生した最大の原因は、「需給の悪化」だ。つまり、原油に対する需要が低迷しているにもかかわらず、「産油量の多さ=過剰な供給」が解消されていない。
まず、需要の低迷は、新興国の経済成長率の減速に影響されている。特に、中国の経済成長率が低下していることは無視できない。
2000年代前半以降、中国は経済成長を遂げ、それが世界的な新興国の景気拡大につながった。リーマンショックまでの中国のGDP(国内総生産)成長率は10%台前半。リーマンショック後、成長率は一時低下したが、政府による4兆元の景気刺激策で再度成長率は2桁台に達した。これが原油をはじめとする資源への需要を高めた。
しかし、景気刺激策は一時的には中国の成長を支えたが、持続的ではなかった。大規模な財政支出は、必要以上に鉄鋼や石炭などの生産能力を蓄積させ、それが不良債権への懸念を高めた。この懸念は2013年頃から顕在化した。
以降、中国の成長率は低下し、2015年、GDP成長率は6.9%まで落ち込む。中国の減速はその他新興国の成長率の低下にもつながった。こうして世界全体で成長率が低下し、原油需要も低迷した。