2017年3月号掲載
ザ・トランポノミクス 日本はアメリカ復活の波に乗れるか
著者紹介
概要
トランプ大統領の経済政策構想が実行されれば、世界経済は大きな転換点を迎える可能性がある ―― 。こう指摘し、トランプ政権誕生が示唆するもの、そして米国および世界経済に及ぼす影響を考察。レーガノミクスに似た経済政策「トランポノミクス」の正体を明かす。今後の経済を考える上で、たたき台となる1冊といえよう。
要約
「トランプ現象」は歴史の転換点
2016年という年は、歴史の大転換点として語り継がれることになるかもしれない。
6月23日に英国のEU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票(Brexit)で離脱派が勝利し、11月8日の米大統領選挙では、当初、泡沫候補とみなされていたドナルド・トランプ氏が勝利した。
これらの結果は事前の予想を覆すもので、世界中の人々に驚きをもって迎えられることになった。
トランプ新大統領誕生が示唆するもの
筆者は運命論者ではないが、「トランプ旋風」をBrexitからの連続的な事象と考えた場合、「歴史の必然性」みたいなものを感じざるを得ない。
今回のトランプ旋風の顚末はBrexitと非常に似ている。両者とも、現政府の政策に対する非エリート層の反乱という側面が強い。
Brexitの場合は、中東からの難民の受け入れ、そして景気回復の恩恵を十分に受けられない中、難民救済のための負担増が日常生活に重くのしかかるという現状への不満が、その根底にあった。
一方、トランプ旋風の場合は、リーマンショック後の景気回復の恩恵を十分に受けられない中間層以下の階層の不満が背景にある。
このBrexitからトランプ旋風への流れには、2つの意味がある。1つは「中間層(非エリート層)の不満」が究極のところまで来ていたこと、もう1つは「エリート層の支配力の低下」である。
大統領選では、ほとんどの大手メディアは民主党のヒラリー・クリントン氏を支持した。さらに選挙後も、その結果を「無教養な一部国民の暴挙」として嘆き悲しんだ。このようなクリントン支持層は「リベラルな知識人階級」という扱いをされており、富裕層が多く含まれている。
今回の結果は、世の中が「リベラルな知識人階級」の思い通りにならなかったことを意味しており、これまであまり欧米社会でみたことがない出来事であったのではなかろうか。
そして、このような「庶民(中間層)階級の反乱」は、「リーマンショック前までの世界経済の構図がほぼ崩れた」ことを意味するのではないか。