2018年6月号掲載

国民のための戦争と平和

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著者紹介

概要

小室直樹氏は言う。「第2次大戦は、『平和主義者』の巻き起こした戦争である」。第1次大戦後、欧州各国に登場した平和主義者は、かえって平和の基礎を掘り崩し、戦争への道を切り開いた。こうした歴史の矛盾を指摘しつつ、戦争・平和について説いた書である。「戦争は高度に文明的な制度」など、目から鱗の指摘がなされる。

要約

“平和主義者”が戦争を起こす

 第2次世界大戦が終わった時、英国の首相チャーチルは、この戦争の意義について問われ、次のように答えた。

 「これは必要のない戦争であった」

 「我々がもっと早く戦争の決意さえしていれば、容易に防げた戦争であった」

 これは、大変示唆に富んだ言葉である。私なりの言葉で言い換えれば、「第2次世界大戦は、『平和主義者』の巻き起こした戦争である」ということになる。その理由は、次のようなものだ。

 第1次世界大戦の後、勝者も敗者もヘトヘトになった。「もう戦争はイヤだ」。英国人もフランス人もドイツ人も、皆こう叫んだ。そんな中、ヨーロッパに現れた運動の1つが平和主義(パシフィズム)だ。

 平和主義者(パシフィスト)は宣言した。「我々は、もはやどんなことがあっても、国王と祖国のために銃をとることを拒絶する」。

 だが、皮肉にも、こうした空想的平和主義こそが、第2次世界大戦の大きな原因となったのだ。

ヒットラーの奇跡はなぜ可能だったのか

 1933年にヒットラーが政権をとった時、彼の夢だった偉大なる第三帝国の建設は絶望的な状態であった。フランスを盟主とする小協商国群(プチト・アンタント)はドイツを取り巻き、ドイツに少しでも不穏の動きがあればすぐに攻め入る体制ができていた。

 これで、世界の平和は守られるはずだった。歴史の事実は、しかし、そうはならなかった。ヨーロッパ諸国は、ヒットラーがヴェルサイユ条約の重要な条項を片端から蹂躙し、強力な軍備を作りあげるのを、指をくわえて見ていたのだ。

 なぜ、このようなあり得ないことが起きたのか。その理由は、空想的平和主義の跳梁跋扈にあった。

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