2019年1月号掲載
ジェンダーはビジネスの新教養である 炎上しない企業情報発信
著者紹介
概要
近年、一流企業のCMがインターネットで「女性差別」だと批判され、「炎上」する例が相次ぐ。その原因は「ジェンダー視点」の欠如にある、と著者は指摘。ジェンダーとは何か。炎上することなく、消費者に共感してもらえる情報発信をするには何に気をつければよいか。資生堂やサントリーなどのCM炎上事例を引き、考察する。
要約
「男だから/女だから」という規範
人々の価値観が多様化する今日、「ジェンダー」に関する理解を深めること、企業が適切な「ジェンダー対応」をすることが、成功のカギになる。
生活や仕事に深く浸透した「ジェンダー規範」
ジェンダーとは「社会的な性差」を意味し、生物的な性差を意味する「セックス」とは使い分ける。特にジェンダーに基づく規範は、私たちの日常生活や職業生活に深く浸透しており、言動や意思決定に影響を与える。
例えば、子どもに対して「男の子なのだから、泣くんじゃありません」「女の子なのだから、もっと優しくしなさい」といった言葉をかける時。また、「男性だから、女性より多く稼がなくては」などと思う時。本人の希望と関係なく、「男だから/女だから」と外から押しつけられる規範は、男女ともに生きづらさを感じさせるものだ。
そして、性別に基づき押しつけられる物事の背景には「男性は強くあるべき」「男性は稼ぐことを最優先するのが当然」といったジェンダーに基づく規範がある。女性に対して、仕事より家庭優先を期待するのもジェンダー規範によるものだ。
男女ともに、1人1人が、自分や配偶者や周囲の人をジェンダー規範で縛っていることがある。
セクハラ対応における日本と海外企業の違い
日本の職場におけるジェンダー問題で、今、最も注目されているのはセクハラ対応だろう。
2018年4月、財務省は福田淳一財務事務次官による女性記者に対するセクハラを認定して、退職金を減額した。この出来事は企業や官公庁などで働く人に衝撃を与えた。これまで、地位が高い人のセクハラは見逃されることが多かったからだ。
海外企業ではセクハラはもちろん、社内恋愛すら禁止の例もある。半導体大手の米インテルは2018年6月、ブライアン・クルザニッチCEOの辞任を発表した。彼は過去に社員と「合意に基づく関係」を持っており、これは全管理職に適用される社内恋愛禁止ルール違反に該当するそうだ。
合意に基づく社内恋愛すら禁止というインテルの社内規定は、日本のビジネスパーソンには厳しすぎると映るだろう。社内恋愛がきっかけで結婚する人は、昔ほど多くないが、今もいる。
ここで注目すべきは、「管理職に社内恋愛禁止ルール」が適用されているところにある。職場で起きるセクハラの多くは、立場が上の人物が下の人物に好意を抱くことから始まるからだ。
例えば、一緒に食事に行く際、片方は恋愛感情を抱いており、もう片方は「上司に誘われたから断れない」と思っているだけのことも多い。