2019年4月号掲載

リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義

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著者紹介

概要

「リバタリアニズム」(自由至上主義)とは、公権力を極力排除し、自由の極大化を目指す立場のこと。社会保障費の増額に反対など、経済政策面は「保守」だが、イラク戦争反対、同性婚に賛成など「リベラル」な面も持ち、従来の左右対立の枠に収まらない。近年、米国社会に広がるこの思想の実態を、現地取材を基に詳説する。

要約

「リバタリアン」とは

 米北東部ニューハンプシャー州。この州で近年、注目を集めている民間の構想がある。その名も、「フリーステート・プロジェクト」(自由州計画)。自由市場・最小国家・社会的寛容を重んじるリバタリアン(自由至上主義者)2万人が同州に移り住むことを目標とする、大胆な構想だ。

 事の発端は2001年7月。イェール大学の大学院生ジェイソン・ソーレンスが、リバタリアン系のオンライン・ジャーナルで「小さな州」への2万人の移住を提唱したことが契機だった。熱心なリバタリアンが2万人集結すれば、小さな州であれば政治を左右できるというわけだ。

 投稿後、わずか2週間で200人以上が参加を表明。署名者が5000人に達した2003年に移住先の投票が行われ、ニューハンプシャー州が選ばれた。

 1776年、アメリカ独立宣言の半年前に最初の「州」として独立を宣言した同州は、独立と自治の精神が強く、伝統的な民主主義の形態のタウンミーティングが今も活潑だ。所得税も消費税もなく、税負担は全米で2番目に低い。銃規制は緩く、他人に見える形での拳銃の携行も許されている。約130万人という人口の少なさに加え、こうした自由な政治風土がリバタリアンに評価された。

 2016年には2万人の署名が集まった。署名した者は5年以内に移住することになっており、すでに4000人以上が州内に居住している ―― 。

政府は「自由にとっての障壁」

 日本では、リバタリアンはアメリカの「保守派の一部」と見なされがちだ。だが、彼らは湾岸戦争やイラク戦争に反対し、人工妊娠中絶や同性婚についても国家が口を挟むべき事案とは考えない。さらに、レイシズム(人種差別主義)やナショナリズムは個人を矮小化するとして否定する。

 ドナルド・トランプ大統領については厳しい意見が多い。「ただのポピュリストでナショナリスト」「規制緩和や税制改革は評価するが、巨額のインフラ投資や軍拡路線はいただけない」等々。

 移民やLGBTQ(性的少数者)、人工妊娠中絶などに寛容なリバタリアンの姿勢は、リベラル派のそれに近い。しかし、銃規制や公的医療保険制度などをめぐる立場は正反対。「政府は自由にとっての障壁」と見なすリバタリアンと、「政府は自由のための手段」と見なすリベラル派の意識の裂け目はあまりに大きい。

 両者とも本来の自由主義からは逸脱している。リバタリアンこそが真の自由主義を忠実に堅持している。彼らはそう自負している。

若者の間で高まるリバタリアン志向

 リバタリアン党の結成は、ニクソン政権時代の1971年。民主党、共和党に次ぎ、3番目に大きい政党だが、党員登録者数は二大政党の数千万人に対し、約50万人という弱小ぶり。長年、大統領選における一般得票率も0.5%前後だった。だが、2012年は0.99%、16年は3.28%と増えている。

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