2019年6月号掲載
マーケティングと共に フィリップ・コトラー自伝
Original Title :My Life with Marketing
著者紹介
概要
“近代マーケティングの父”フィリップ・コトラーによる、初の自伝である。生い立ち、マーケティングとの出合い、そして社会問題の解決への活用。マーケティングを単なる経済活動ではなく、「世の中を良くするための学問」として追い続けた足跡を振り返る。企業と生活者、社会の関係を考える上でも、示唆に富む1冊だ。
要約
「マーケティング」との出合い
マーケティング ―― 。企業業績の向上と顧客の価値・満足を創造する、この実践的な学問に足を踏み入れて半世紀になる。大学で教壇に立つ傍ら、企業や各国政府機関のコンサルタントとして、マーケティング・サイエンスの発展に努めてきた。ここで、その歩みを振り返ってみたい。
シカゴ生まれ、学究肌の3兄弟
私は、世界恐慌で世の中が大混乱していた1931年5月27日、米イリノイ州のシカゴで生まれた。両親はウクライナからのユダヤ系移民だ。
私は長男で2人の弟がいる。3人には共通点が1つある。そろって学究肌で、「世の中を良いものへと変えていきたい」と望んでいたことだ。
そんな社会的問題に我々兄弟の目を向けさせたのは、生まれ育ったシカゴの環境かもしれない。というのも、あの頃のシカゴは貧富の差が大きく、治安が悪化していたからだ。子どもながらに社会に存在する不条理、矛盾がはっきりとわかった。
高校生になると自分の行く末について考えるようになる。ユダヤ系移民の子どもは、たいてい「医者、弁護士、技術者の3つから選べ」と言われる。だが、どれも魅力を感じず、会計士になることに決めた。そこで選んだのが名門、デポール大学だった。会計と法律を同時に学べたからだ。
ただ、大学2年生になったあたりから会計や法律の知識、実務を得る前にもっと幅広い教育を受け、本質的な問題を見つけるべきだと考えた。
そこで、デポール大で2年過ごした後、シカゴ大学に入学した。古典の原書を熟読し、問題を議論し、批判的論文を書いた。プラトン、マキャベリなど哲学者の思想に触れ、思索するのを心から楽しんだ。
ハーバード大学でマーケティングを学ぶ
シカゴ大学では、ミルトン・フリードマンをはじめ、ノーベル経済学者を輩出するシカゴ学派の教授陣から自由市場の価値についても学んだ。
経済学修士号をシカゴ大で取得した20代半ばに、目指す道は明確になっていた。一流の大学で経済学教授として卓越した業績を残すことだ。
そうなると、次のステップは経済学博士号を取ることだ。当時、この分野で最も充実していた大学の1つ、マサチューセッツ工科大学に進んだ。
経済学の博士号取得後、私はルーズベルト大学の経済学部で教壇に立つことになる。