2019年9月号掲載
僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた
Original Title :IRRESISTIBLE
著者紹介
概要
近年、新しい依存症「行動嗜癖」に陥る人が増えている。それは、スマホを頻繁に覗く、ドラマを何話分も一気に観るなど、行動への依存を特徴とする。著者は、病の背後には、「依存症になるようにデザイン」されたテクノロジーの存在があると指摘。人をのめり込ませるメカニズムを明らかにするとともに、その対応策を提示する。
要約
自分の商品でハイになるな!
2010年1月。アップルのイベントで、iPadを発表したスティーブ・ジョブズは言った。「このデバイスにできることは、まさに驚異的です」。
誰もが1台ずつiPadを所有すべき。そう固く信じる彼は90分にわたり、iPadの魅力を説いた。
だが一方で、こんな事実がある。ジョブズは自分の子どもにiPadを使わせていなかったのだ。
ジョブズだけではない。IT業界の大物たちの多くもそうだ。例えば、ツイッターを生み出したエヴァン・ウィリアムスも、幼い息子2人にiPadは与えていない。
自分がさばく商品でハイになるな ―― 。彼らはまるで、薬物売人の鉄則を守っているかのようだ。
自分の仕事は依存症製造機の開発
腑に落ちない話である。世界にテクノロジーを広める立場にある者が、なぜ、プライベートでは極端なほどテクノロジーと距離を置きたがるのか。
インスタグラムの立ち上げに携わったエンジニア、グレッグ・ホッホムートは、自分の仕事は実質的に依存症製造機の開発だったと考えている。
「どれだけハッシュタグをクリックしても、常にその先がある」「やがて人間はハッシュタグに執着しだす」と、彼は言う。
インスタグラムには終着点がない。他の様々なソーシャルメディア・プラットフォームも同様だ。フェイスブックのフィードはエンドレスにつながっていく。ネットフリックスでドラマを観ていれば、自動的に次のエピソードに案内される。出会い系アプリでは、もっといい相手を求めて延々とスワイプし続けずにいられない。
こうしたアプリやウェブサイトは便利だが、それを「節度ある」範囲で使用するのは難しい。
環境によって誰もが依存症になる
ジョブズらの懸念には根拠がある。