2020年6月号掲載

格差は心を壊す 比較という呪縛

Original Title :THE INNER LEVEL

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著者紹介

概要

所得格差が大きな社会は、格差の小さな社会よりも、健康や社会の問題に苦しむ人が多い。金持ちでも幸せになれない ―― 。英国の格差研究の第一人者たちによる渾身の研究である。不平等が人の心をいかに蝕んでいくのか、そして、誰もが幸せになれる社会にどう移行するか。多くの文献とデータを駆使して分析し、提言する。

要約

格差は私たちを不安にさせる

 富裕層と貧困層の所得格差が大きい ―― 。こうした社会では、格差の小さな社会より、人々は様々な健康や社会の問題に苦しむ可能性がある。

物質的には豊かなのに、精神的には不安

 経済成長は私たちに物質的な豊かさをもたらしたが、逆に精神的な不安は高まる傾向にある。

 豊かになれば、生活水準が低い国の人々と比べて悩みは少なくなるはずだ。しかし世界保健機関(WHO)の調査によると、先進国では開発途上国よりも心の病の発症率が大幅に高い。精神障害の生涯有病率は、米国55%、ドイツ33%、その一方でナイジェリアは20%、中国18%である。

社会的地位が私たちの優劣を示す基準に

 なぜ、先進国で精神的な不安が高まるのか。

 多くの研究において、所得格差が大きな社会ほど社会生活が弱体化し、格差が小さな社会ほど連帯が強まることが示されている。

 格差のない社会ほど、地域活動やボランティア活動への参加率が上昇する傾向がある。人々の間では相互の信頼感や扶助の精神が高まり、暴力犯罪率が低下し、仲良く暮らすことができる。

 では、平等な社会では、どうして社会の連帯が強まるのか。それは、お互いに安心できるからだろう。個人的な価値観に大差がなければ、人の交流が盛んになる。そもそも人は、似たような境遇の中から友達を選ぶ傾向がある。

 これらが意味するのは、社会の階層化が進めば進むほど、人々は生まれによって序列化されるという意識が強まり、自尊心が大きく傷つけられることだ。不平等が拡大する社会では社会的な流動性が低下し、こうした意識は強まっていく。

社会的地位は個人の実力を反映する

 現代の市場民主主義は、基本的に“実力主義”であり、社会的地位は個人の実力の反映だとする考え方がある。社会的な地位に格差があっても不公平ではない。社会的な地位の低さは、個人的な不適格性と怠慢によるものだ、という。

 そうした考えによって、個人の能力や知性を社会的地位で判断する傾向が助長され、社会的地位の低い人はますます惨めな気持ちにさせられる。