2020年7月号掲載

AI世界秩序 米中が支配する「雇用なき未来」

Original Title :AI SUPERPOWERS:CHINA, SILICON VALLEY, and the NEW WORLD ORDER

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著者紹介

概要

AIがもたらす未来はユートピア? それともディストピア? IT業界で活躍する著者の見立ては、明るいものではない。今後、全世界の富は、AIの開発をリードする米中2国の巨大IT企業が吸い上げる。その一方、世界中で社会や雇用が不安定化し、格差が拡大。人間の存在意義をも揺るがす。そんなAI時代の世界秩序を提示する。

要約

中国のスプートニク的瞬間

 柯潔(コ・ジェ)、19歳。2017年5月、この中国人青年は、「アルファ碁」と対局した。グーグルの子会社が開発したAIの囲碁プログラムである。

 コ・ジェは、地球上で最強の棋士と称される。だが、アルファ碁に徹底的に打ちのめされた。

アルファ碁が中国に与えた影響

 どんな立場で見るかによって、この対局が持つ意味は違ってくる。アメリカ人にとって、アルファ碁の勝利は、人間に対する機械の勝利、欧米のテクノロジー企業の世界制覇という意味がある。

 一方、中国にとってアルファ碁の勝利は、“スプートニク的瞬間”となった。

 1957年、ソ連が世界初の人工衛星を打ち上げ、アメリカ人に大きな衝撃をもたらした。米国社会は、技術的に優位に立ったソ連に不安を感じる。

 それを機に、米航空宇宙局(NASA)が生まれ、科学教育に多額の補助金が注ぎ込まれた。国をあげての努力は、12年後、アームストロング船長が月面に降り立った最初の人間となって報われた。

 同様に、アルファ碁は中国のテクノロジー業界に火をつけ、それ以降、火は燃え続けている。中国のAI企業に対する投資、技術研究、起業活動は史上例を見ないスケールで増えている。

 コ・ジェがアルファ碁との対局で負けを宣言してから2カ月もしないうちに、中国政府は“次世代人工知能発展計画”を発表。AI開発のために、多額を投資し、それを支持する政策を打ち出し、国民一丸となろうと呼びかけるものだった。

ゲームを支配するもの

 アルファ碁は、ディープラーニングと呼ばれる、コンピュータの認知能力を大きく向上させる画期的な手法を使用している。今やディープラーニングを使ったプログラムは顔や声の識別、ローンの与信審査などができ、精度は人間を上回る。この2、3年でディープラーニングが大きく進歩し、ついにAI革命が起きたのだ。

AIと国際研究

 ディープラーニングはほぼすべて、アメリカとカナダとイギリスで誕生し完成された。しかし、その恩恵を最も受けるのは中国だろう。なぜか?