2021年2月号掲載
オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る
著者紹介
概要
著者は1981年、台北市生まれ。IQ180。新型コロナを早々に封じ込めた台湾で、デジタル担当の閣僚として、感染防止の中心的役割を担った。そんな“テクノロジー界の異才”の、世界初の自著だ。コロナ対策成功の秘密から、デジタル・AIが開く新たな社会像まで。トランスジェンダーである自身の生い立ちも交え、大いに語る。
要約
台湾のコロナ対策
台湾は2020年、新型コロナウイルスの封じ込めにいち早く成功した。これは、蔡英文総統が語っているように、「医療専門家や政府、民間、社会全体の努力」が合わさった結果である。
SARSの経験を活かしたコロナ感染拡大防止策
台湾では、早くから感染拡大防止に全力を傾けた。具体的には、1月20日に衛生福利部(日本でいえば厚生労働省)の下に「中央感染症指揮センター」を設立し、各部会(日本でいえば省庁)が連携して防疫対策に臨む態勢を築いた。
そして1月21日に武漢から帰国した台湾人女性の感染が確認されると、翌日には武漢からの団体観光客の入国許可を取り消し、24日には中国本土からのすべての団体観光客の入国を禁止した。
こうした素早い対応の結果、台湾ではロックダウン(都市封鎖)や学校の休校、飲食店の強制休業などを行う必要はなかった。
台湾が感染拡大防止に成功した理由の1つに、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験がある。台湾では、SARSで346人の感染者と73人の犠牲者が出た。当時の現場はカオス状態だったと思うが、SARSが収束した後、政府は課題を1つずつ検討して解決してきたのだ。
マスク問題をいかに解決したか
新型コロナウイルス対策に関して、政府が対処すべき大きな問題の1つが、マスクの供給だった。
政府はまず民間企業にマスクの増産を要請し、それを政府が買い上げることにした。
そして当初、政府は「コンビニエンスストアなどで誰もがマスクを3枚まで購入できる」という政策を進めた。しかし、1人の人が複数の店舗で購入するという問題が発生した。そのためマスクが品切れになり、パニックが起こりそうになった。
対策会議の結果、台湾の国民皆保険制度を活用して、「全民健康保険カード」を使った実名販売を始めることにした。ただし、あるコンビニで誰かがマスクを購入したら、その情報がリアルタイムで別の店舗にも共有される必要がある。そうしないと、また複数店舗で購入する人が出てくる。
そこで、クレジットカードなどを使ったキャッシュレス決済を組み込むことにした。この方法なら、誰がマスクを購入したかを確実に把握できる。
ところがスタートしてみると、この方法でマスクを購入した人は全体の4割しかいなかった。現金を使い慣れた高齢者には不便な方法だったのだ。