2021年7月号掲載
パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える
著者紹介
概要
今後、世界を動かすのは「カネ」ではない。「志(パーパス)」である ―― 。資本主義が綻びを見せる中、近年、ESG(環境・社会・統治)やSDGs(持続可能な開発目標)が注目されている。だが、これらは経営戦略としては不十分だと指摘。高い志に基づく「志本主義」と、21世紀型の成長を実現する「新SDGs」の考え方を説く。
要約
資本主義を超えて
資本主義の終焉が、声高に喧伝されている。
毎年1月、スイスのダボスで世界経済フォーラムの年次総会(通称・ダボス会議)が開催される。集まるのは、世界企業の経営者や政治家、知識人。
ここ数年、会議の中心テーマは「資本主義の終焉」である。資本主義社会の頂点に立つリーダーたちがこぞってこの問題を議論しているのは、皮肉な光景だ。資本主義を何とか延命しようという本音が、痛ましいほど透けて見える。
資本の本質は、カール・マルクスが指摘したように「自己増殖する価値の運動体」である。そして資本主義は、資本が主体として再生産を繰り返すことで社会を成長させることをめざしている。しかし、そのような成長神話そのものが、いよいよ成立しなくなってきているのだ。
1972年、スイスに拠点を置くローマクラブが「成長の限界」を発表して大きな反響を呼んだ。シミュレーションを基に「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」との結論を導き出したのだ。
同クラブはさらに2009年、「ファクター5」というレポートを公表した。「地球上の70億人全員が現在の米国人と同レベルの資源消費性向を持つと、地球が5つ必要となる」と試算。そして、資源消費を抑えるためには、豊かさを“経済”ではなく“生活の質”に求めるべきだと主張した。
では、資本主義の先に来るものは何か。いくつか候補は挙がっている。例えば ――
人本主義(Talentism)
2020年のダボス会議で、同会議会長のクラウス・シュワブは、「キャピタリズムの先はタレンティズムだ」と語った。地球課題を解決するためには、世界中のタレント(人財)を集結しなければならないと提案したのだ。
しかし、この言葉にはデジャブ(既視感)を禁じえない。日本では、かねてより経済や企業活動の主体はヒトであることは、当たり前のように考えられてきた。一橋大学名誉教授の伊丹敬之が「人本主義」と名づけた考え方である。
知本主義(Intellectualism)
資本主義社会の先に「知識社会」が来るという主張は、これまで繰り返し唱えられてきた。
口火を切ったのは、ピーター・ドラッカーだ。1969年の著書『断絶の時代』で、これからは「カネ」ではなく「知識」が主体となると主張。すなわち、カネではなく「知」が成長のドライバーだとする「知本主義」である。