2021年11月号掲載
イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント 不確実性をコントロールする戦略・組織・実行
- 著者
- 出版社
- 発行日2021年9月1日
- 定価1,760円
- ページ数239ページ
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著者紹介
概要
近年、日本では新規事業開発に取り組む企業が増えつつある。ビジネス環境が厳しさを増す今、どんな企業も事業を創り続けなければ生き残っていけないのだ。だが、成果を上げる企業は極めて少ない。どうすれば成功確率を高められるのか。数々の新規事業を支援してきた著者が、その経験から得られた実践的な知見と手法を説く。
要約
新規事業開発が失敗する理由
ここ数年、日本では従来にないほど企業における新規事業やイノベーションの必要性が声高に叫ばれ、それに呼応するように各社の意欲・関心が高まっている。だが実際のところは、「新規事業開発がうまくいっている」と断言できる企業は極めて少数派だ。大半の企業は苦戦している。
なぜ、企業の新規事業開発は失敗するのか?
企業内新規事業開発がうまくいかない背景には、数多くの構造的な課題が存在する。それらの課題は、次の3つに分類できる。
①ビジョンや新規事業開発への方針・戦略がない
多くの企業が、中長期的なビジョンや、「なぜ新規事業に取り組む必要があるのか?」「自社にとって必要な新規事業の定義とは何か?」といった全社的な方針や戦略を定めていない。
方針や戦略が定義されていなければ、自社に必要な新規事業の領域や要件を検討するための判断軸がなく、良い事業構想を練ることができない。
②良質な「多産多死」を実現するための組織になっていない
仮に全社的な方針や戦略が策定されていても、それを高いレベルで実行し続け、良質な「多産多死」(中長期の目線で多くの事業を生み出し、結果としてわずかな成功が生き残ること)を実現するための組織や人材がなければ、すべては絵に描いた餅で終わる。組織づくりや人材づくりという観点でも、企業が抱える課題は深刻だ。
例えば、評価制度。多くの企業は、既存事業に最適化された制度や仕組みの中で新規事業に取り組み、活動を評価してしまう。だが、新規事業に求められる優秀な人材の定義は既存事業とはまったく異なるため、評価方法それ自体を変える必要がある。既存事業においては「失敗しないことが出世の近道」となりがちだが、失敗に終わる可能性が高い新規事業に減点方式は適していない。
③自社の性質や事業の不確実性に応じた事業開発プロセスを実行していない
新規事業開発のメソッドや方法論に、すべての企業に通用するような万能なものはない。その企業の特性や取り組む目的、置かれている環境などにより、採用すべきメソッドは異なる。
しかし、新規事業開発の経験者が少ない企業における企業内新規事業では、特定の方法論を「よりどころ」にしてしまう傾向がある。本来ならば事業を成功させるという目的のための手段に過ぎない方法論が目的化した結果、リーンスタートアップやオープンイノベーションといった「手段」が先行する事態が頻発している。
また、スタートアップの事業開発を安易に模倣してしまう問題も、本質は同じである。経営資源を持たないスタートアップならば、ひたすらアイデアを考え、顧客の声を聞きながら改善を繰り返していくプロセスが適している。だが、既存事業の資産や人的リソース、顧客基盤などの経営資源を有する企業が、それらを活かさずに新規事業を立ち上げるのは、適切とはいえない。
最初から自社の経営資源ありきでしか事業を考えない、というのも問題だが、最終的に自社の経営資源が強みとして活きない新規事業開発が成功する可能性は極めて低いのもまた事実である。