2022年3月号掲載
永守流 経営とお金の原則
著者紹介
概要
緻密で揺るぎない財務の戦略、原則があってこそ、企業は成長できる! こう指摘する日本電産の創業者・永守重信氏が、半世紀にわたる企業経営を通して会得した“経営とお金の原則”を披露。キャッシュの重要性から、取引先の見極め方、M&A成功の秘訣まで。実践的な知識やノウハウが、具体的なエピソードを交え語られる。
要約
キャッシュこそ企業価値の源泉
会社というのは、常に天国と地獄の境目にある。生き残るか、つぶれるか。そのどちらかだ。そして、どんな会社もつぶれる可能性を内包している。
私も創業して数年の間に、何度か厳しい場面にぶち当たった。そうした中で、会社をつぶさないための財務戦略を身につけてきた。財務戦略は植物でいえば根っこにあたる。しっかりした根があるから、その上に成長戦略の花が咲くのである。
利益よりキャッシュ
企業価値のすべての源泉はキャッシュ(現金)であり、経営判断をする際の最も重要な基準である。売上より利益、利益よりキャッシュというのが財務の基本であり、経営の原点である。
もちろん売上がなければ利益もキャッシュもないが、売上を増やすことばかり考えていると、成長ではなく膨張になってしまう。最も重要なのはキャッシュがきちんと得られる利益を継続して出すこと、その仕組みを作ることだ。例えば ――
売値は市場で決まる、原価は自ら決められる
モノを作って売る。いくらで製造して、どういう価格で売れば、採算がとれて利益が出るのか。これを考えるのが経営の基本である。
売値は市場で決まる。ここでは競争があるから、思い通りにはならない。だが、原価は自分たちの努力によって下げられる。自分たちで決められる原価をいかに安くするか。これが利益を出し、キャッシュを確保するためのカギになる。
競争力のある売価にすれば、顧客は買ってくれる。しかし、売価を下げると利益が減る。だから、仕入れの原価を注意深く見なければならない。
それを誰がやるのか。やはり経営トップである。
ゴミ箱からわかる赤字企業の課題
かつて私の日課の1つとして「経費チェック」があった。電気代から事務用品の代金まで、伝票をすべてチェックするのだ。経費伝票というのは実に雄弁で、会社の状況がすべて見えてくる。
我が社はこれまで60社以上の企業をM&Aで傘下に収めてきたが、その多くは赤字企業だった。赤字企業に共通しているのが、コスト意識の低さである。そこで、コストに対する意識を浸透させるために、例えばこんなことをやる。
まず、部屋にあるゴミ箱の中のものを新聞紙の上に出してもらう。まだ使えるものが捨てられていないか、チェックするのだ。日本電産では裏紙も使うが、赤字企業では裏が白いままの紙が捨てられていることが多い。1つの基準として、ゴミ箱に3割以上使えるものがあった場合、コスト意識を徹底するだけですぐに黒字化できる。