2022年9月号掲載
中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス
- 著者
- 出版社
- 発行日2022年6月17日
- 定価2,420円
- ページ数375ページ
※『TOPPOINT』にお申し込みいただき「月刊誌会員」にご登録いただくと、ご利用いただけます。
※最新号以前に掲載の要約をご覧いただくには、別途「月刊誌プラス会員」のお申し込みが必要です。
著者紹介
概要
中国経済は、高度成長期を過ぎ、今や減速期に入りつつある。主要国トップの巨大市場は、これからどうなるのか? 習近平政権が進める「共同富裕」政策、急速に進む少子化、デジタル経済の急拡大、ハイテク分野の米中デカップリング…。経済を左右する様々なデータをもとに中国が直面するリスクを分析、今後の中国経済を見通す。
要約
「共同富裕」時代のリスクとチャンス
中国経済は、2桁の高度成長期を終えて、2010年代以降、減速期に入っている。すでに10年にわたって減速を続けており、足元の潜在成長率は5~6%くらいまで下がったと見られる。
今後も減速していくことは、ほぼ間違いない。問題は、減速がどの程度になるかということだ。
中国経済の減速を懸念する理由は多い ―― 。
共同富裕政策と改革開放・イノベーションの行方
中国の高度経済成長をもたらした最大の要因は改革開放とそれによるイノベーションだ。今後、中国経済が減速していくにしても、減速のペースを緩やかにできるかどうかは、改革開放を通じたイノベーションにかかっている。
しかし、最近の習近平政権の経済運営を見ると、改革開放が逆行しているのではないかと懸念される事象が次々に起こっている。
2020年11月、アリババ傘下の金融子会社アントグループの新規株式公開(IPO)が直前に停止された。12月の中央経済工作会議では「独占禁止を強化し、資本の無秩序な拡張を防止する」として、プラットフォーマーに対する行政処分等が相次いだ。そのほか、不動産業界、教育業界、ゲーム業界に対しても、規制の強化が実施された。
これらの業界に対する規制強化に底流する共通要素がある。それが、習近平政権が重視する「共同富裕」政策だ。
なぜ今、共同富裕を強調するのか
共同富裕とは「人民が共に豊かになる」という考え方で、もともと毛沢東が提唱した概念だ。習近平国家主席は、この共同富裕を従来よりも重要な政策アジェンダとした。
2021年1月の講話で、習氏は「共同富裕の実現は経済問題であるだけでなく、党の政権基盤に関わる重大な政治問題でもある」とした。一党支配の正当性を維持するには、経済のパイの拡大に加え、分配の公平性も必須だと考えているのだろう。
だが、なぜ今、改めて共同富裕を強調するのか。1つには、格差の固定化を懸念しているのだろう。中国では、相続税も固定資産税もない。資産を持った家庭に生まれれば、その子孫は豊かさを享受できる。一方、都市部に出てきた農民工は都市部の戸籍が得られないため、子供に十分な教育を与えられない。子孫が富裕になるチャンスは低い。
これでは、共産党が全人民の代表として支持を得続けることが難しくなると考えているのだ。