2022年10月号掲載
オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題
著者紹介
概要
近年、一気に普及したオンラインのコミュニケーション。だが、オンラインの会話では、対面の時のような「共感」は生まれない ―― 。脳科学者が、コロナ禍での緊急実験をもとにオンラインの限界を指摘、スマホなどデジタル機器の長時間使用が脳に及ぼす弊害を明かした。私たちを蝕む「オンライン脳」に警鐘を鳴らす1冊だ。
要約
オンラインでは心が動かない
コロナ禍で、オンラインでのコミュニケーションが一気に普及した。多くの企業で、オンラインによるリモート業務は日常的になった。
オンラインなら、移動のコストもかからないし、働き方改革にもなる。会社にも個人にもメリットが大きい、と思われているかもしれない。
ところが、ここに大きな落とし穴がある。「便利になった」のと、私たちの「脳がどう感じているか」は、まったく関連性がないことだ ―― 。
対面とオンラインのコミュニケーションを比較
コミュニケーションには、人と人が直に顔を合わせて会話する「対面コミュニケーション」と、直に顔を合わせることなく会話する「オンラインコミュニケーション」がある。
私たちは、この2つのコミュニケーションにおける「脳の活動」の違いを確かめる緊急実験を行った。期間は2020年6月から約半年間。東北大学の学生の協力を得て、学生5人を1組として、全5組(25人)に集まってもらった。
各人には、どんなことに興味があるかを事前にヒアリングし、これを参考に会話のテーマを設定した。例えば5人全員が映画好きであれば、「好きな映画について語り合う」をテーマと決める。こうして自由に話をしてもらう状況をつくった。
「対面会話」と「ウェブ会話」の大きな違い
そして、決めたテーマにそった会話や議論を、次の2つの条件の下で行った。
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- ①顔を直接見ながらの「対面会話条件」
- ②モニタを介しての「ウェブ会話条件」
この実験の結果、対面会話条件で話す時は、参加者5人の“脳の同期”が有意に観察された。脳の同期とは、脳の活動が一同に上昇したり、下降したりと同じような動きをしていることを指す。脳の活動が、お互いにシンクロしている状態だ。
ところがウェブ会話条件で話す時は、5人の間で脳の同期が起こらなかった。言い換えれば、対面会話では参加者の間で「共感」が生じたのに、オンラインのウェブ会話ではそれが生じなかった。
共感する時に働く大脳の部位
私たちは、なぜこの緊急実験を行ったのか? それには、次のような背景がある。
これまでの脳科学の研究から、私たちが他者と共感する時、脳のどの部位が反応しているかは、すでにわかっている。それは大脳に主に3カ所ある。1つ目が前頭葉の内側、2つ目が側頭葉の先端あたり、3つ目が側頭葉と後頭葉の間あたりだ。