2023年7月号掲載
参謀の教科書 才能はいらない。あなたにもできる会社も上司も動かす仕事術
著者紹介
概要
上司に代わって計画立案や情報分析を行い、時に諫言することも厭わない ―― 。不確実性が増す今の時代を組織が生き抜くには、リーダーの意思決定を的確に補佐する「参謀」の存在が欠かせない。では、優れた参謀になるにはどのような能力が必要か。海上自衛隊で海将を務めた著者が、身につけるべきスキルについて解説する。
要約
日本社会に求められる「参謀」
今の日本社会には、「参謀(正しいフォロワーシップ)」が必要である。それは、従来のリーダーシップ一辺倒の組織、つまり、トップダウン型の組織が今の時代にそぐわないからだ。
リーダー自身も何が正解なのかわからないような不確実性の時代においては、柔軟性が不可欠だ。では、組織の柔軟性をどう実現するのか? 権限を分散し、個の力を引き出す以外に方法はない。
昔ながらのトップダウンが色濃く残る日本社会
迅速な意思決定が必要な時は、トップダウンでなければ任務の完遂は困難だ。しかし、トップダウン型組織は、一部の人間の意思決定に組織の運命が委ねられるリスクを常に含んでいる。
日本の場合、太平洋戦争における帝国陸海軍でその危うさが露見した。陸軍と海軍の軋轢、非合理的な判断ミスを犯す指揮官を許した情実人事の横行…。海上自衛隊が、米海軍からフォロワーシップを導入したのも、帝国陸海軍が犯したような破滅的な大失敗を二度と起こさないためだ。
しかし、今の日本社会全体を見渡して、太平洋戦争での失敗は活かされているといえるか? 答えはノーだ。政治やビジネスの世界から教育現場に至るまで、日本では相変わらず昔ながらのトップダウンが色濃く残っている。
そうした組織では多数を占めるフォロワーの当事者意識が欠けているため、不満があっても「それは無能な上司のせい。自分には関係ない」とひと言で片づけてしまい、イノベーションも改善も生まれない。その結果が「失われた30年」だ。
日本の停滞を打開するカギは「参謀」
そんな日本の停滞感を打開するキーワードとなるのが、参謀である。参謀の役割を端的にいえば、リーダーの意思決定を補佐することだ。計画を練る、アイデアを出す、情報を集める、相談相手になる。そして、もしリーダーが誤った判断をしそうな時は臆せず意見を言う。
そんな優れた参謀になるために必要な能力は、「提案力」「対人力」「危機管理能力」の3つだ。
提案力
まずは「提案力」。上司に対して主体的に提案し、その意思決定をサポートすることが参謀の役割である以上、高い提案力を持つことは参謀にとっての最重要スキルである。
自衛隊では様々な意思決定を担うことになる幹部自衛官に、正しい意思決定の仕方を教える。具体的には「作戦要務」と呼ばれるカリキュラムで、幹部候補は状況に応じた最善策を自ら考え、部隊で実施する方法を学ぶのである。例えば ――