2024年1月号掲載
プロカウンセラーの面接の技術
著者紹介
概要
上司が部下と面談したり、採用面接を行ったり、あるいは暮らしの中で人から話を聞いたり。社会生活において、他者と向き合い、話を引き出す機会は少なくない。その際、面接者が工夫すべきこととは? 「物わかりが悪い態度」で聞く、「沈黙」を効果的に用いる…。プロのカウンセラーが、現場で培った技術の数々を披露する。
要約
面接に役立つ知恵と工夫
カウンセラーの仕事。それは、心に悩みを抱えた人と出会い、悩みを聴き、その悩みに何らかの変化をもたらすことである。
カウンセラーは、ちょっとした言葉遣いや声の力みなどの違いが、その後の成り行きに大きな違いをもたらすことを経験し、その経験から学ぶ。
現場のカウンセラーが、日々、試行錯誤しながら身につけていくクライエントとの関わり方の知恵や工夫は、職場の上司が行う面接など、他の様々な目的でなされる面接でも役に立つ ―― 。
信頼関係を作る
面接を効果的に進める上で最も重要なことは、相手との間にしっかりした信頼関係を作ることだ。信頼関係がしっかりできていれば、相手は豊かな情報を与えてくれる。逆に、信頼関係ができていなければ、相手は防衛的となり、通り一遍の話しか出てこない。面接で得られる情報のクオリティは、関係のクオリティにかかっているのだ。
出会いの最初の挨拶と自己紹介は、関係作りの最初のステップである。きちんとした挨拶は、相手への尊重を伝える。名前を告げ、自分の立場を明確にすることは、相手に安心感を与える。
面接のおおよその時間や、面接が持たれることになった経緯、面接の目的や目標を伝えることもそうだ。面接の最初のこうした小さな作業がどのように行われるかによって、相手からの信頼感はかなり左右される。
目標についての合意はできているか
相手との間に信頼関係を確立しようと思うなら、面接者と面接相手との間で、面接の目標についての合意が形成される必要がある。「この面接は何のために、何を目指して行われるのか」について、面接者と相手とが合意する必要があるのだ。
面接の目標についての合意が不確かだったり、不一致だったりするために、面接の効果が損なわれている場合はしばしばある。
例えば、「異動についての希望調査」だと言われて来てみたら、リストラの勧告だったというような場合。組織のあり方についての「意見の聴取」だと言われて来てみたら、上層部からの方針の一方的な通達の場だったというような場合。
こういう場合、そのような不一致があるままで面接が進行し、終わってしまうなら、しっかりとした信頼関係は形成されないだろう。その結果、面接で得られる情報の質はかなり損なわれる上、むしろ相手との関係性が悪化する可能性さえある。
話してくれない相手
面接者から「相手が話してくれないから、得られる情報が少なくて…」という声を聞くことがある。でも、それは言語情報だけを情報だという前提に立っているからである。