2024年5月号掲載
武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか
Original Title :Underground Empire:How America Weaponized the World Economy (2023年刊)
著者紹介
概要
米国の凄さは軍事力や経済力だけではない。インターネットや金融インフラなど、「目に見えない」ところも支配しているところにある。本書は、世界にまたがるこれらのシステムがいかに生まれ、米国の覇権を支えているのか、事例を交えて解説。「見えない力」を武器に、敵国だけでなく同盟国をも服従させる米国の実態を描く。
要約
地下を支配する米国
今日、米国は交易路を軍事力で守り、世界のシーレーン(重要な海上交通路)を海軍にパトロールさせている。だが、それだけではない。米国の活動の多くは地下でも行われている。
米国の権力は埋設された光ファイバーケーブルを通じて、インターネットのようなネットワークや、銀行が世界中に送金するために用いる金融インフラにも入り込んでいる。グローバルな貿易の促進をうたう「開かれた市場」の地下には、目には見えないが、知的財産や技術的専門知識のネットワークが存在している。そしてそれが米国の指導者たちに圧倒的な支配力を与えているのだ。
現代の帝国である米国は、光ファイバーケーブルやサーバー群、金融決済システム、半導体など高度な製品製造の技術を「威圧の道具」に変えた。世界の光ファイバー網、金融システム、半導体サプライチェーンは米国に集中し、米国による強大な力の行使を支えている。
米国が支配するバーチャルな高速道路
このシステムは、道路に例えると理解しやすい。
車で通勤する人は、毎朝、家を出て交通量の多い通りに入る。その通りはやがて高速道路につながる。毎朝、地下帝国に入る人々もそれは同じだ。彼らは携帯電話の電源を入れたり、職場のコンピューターにログインしたりする。そうすることで、彼らは自覚しないまま自分の情報を埋設されたケーブルに送っている。
そのケーブルは、拠点間、国家間などを結ぶ高速・大容量のネットワーク回線(インターネット・バックボーン)に接続している。その情報の大動脈は数百万の車線がある高速道路のようなもので、国内と国外の交通が混在している。また、様々な国の様々な人々が、同じ高速道路を利用している。
問題は、この目に見えない道路を利用する旅行者は、仮に短い距離を移動するだけでも、ワシントンDCを経由しなければならないことだ。ドライバーたちは必然的に迂回させられ、NSA(国家安全保障局)本部を通過し、NSAはその様子を写真に収める。そのドライバーが何者で、どこに向かっているかを、後で米国政府が知ろうとした時に備えてのことだ。
また、このバーチャルな高速道路の交通は、現実世界の物流に影響を及ぼす恐れがある。米国政府が通信データを確認しているうちに、韓国・ソウルから中国・上海に先端半導体が送られようとしていることを示す電子メールを発見し、コンテナを差し押さえるかもしれない。
経済ネットワークを支配の道具に変える
2001年9月11日に同時多発テロが発生した時、米国は自らの脆弱さを思い知らされた。だが同時に、新たなグローバル経済の配管の中に、政治的な力が隠されていることに気づいた。
当初、米国政府はその発見をテロリストやならず者国家という悪者を攻撃するために利用した。しかしやがて、米国政府は自国を守るために、また同盟国や友好国を服従させるために、ゆっくりと経済ネットワークを支配の道具に変えてきた。
では、この地下帝国はどのようにして誕生したのか?