2024年5月号掲載
全員“カモ” 「ズルい人」がはびこるこの世界で、まっとうな思考を身につける方法
Original Title :NOBODY'S FOOL:Why We Get Taken In and What We Can Do about It (2023年刊)
著者紹介
概要
「自分だけは絶対にだまされない」。そう思っていても詐欺師の“カモ”になる! 投資詐欺やステルスマーケティングなど、現代社会にあふれる詐欺の数々。それらは、誰もが持つ“心の働き”を利用して人を欺く。そのズル賢い手口を、認知心理学の視点から徹底検証。だまされないためのポイントを、豊富な事例を交えつつ説く。
要約
誰もがカモになる心理バイアス
「誰でも、たまには何かにだまされる」 ―― 。
元米国国防長官で海兵隊大将のジェームズ・マティスは、自分がだまされた理由をそう説明した。
当時、彼はエリザベス・ホームズが創業したセラノス社の取締役を務めていた。同社は指先から採取した数滴の血液を垂らすだけで、数十種類から数百種類もの検査を行えるという画期的な小型医療検査装置を開発したと主張していた。
同社の担当者から「この装置は戦場でも使えます」と伝えられたマティスは、アフガニスタンに駐留する米軍にこの装置をテストするよう命じた。しかし、この装置は問題が多かったためテストは実行されず、結局、同社は破綻した。
私たちをだまそうとする輩たち
「誰でも、たまには何かにだまされる」というマティスの主張は正しい。しかし、もっと重要な問題がある。現代社会には、私たちをだまそうとする輩があふれているということだ。
ウォール街のネズミ講、ナイジェリアの電子メール詐欺、信心深い人々を食い物にする霊媒師、実験結果を捏造する科学者、贋作の芸術品を売りさばく悪徳業者…。
しかも、これは詐欺など犯罪だけの問題にとどまらない。現代の企業は、欺瞞的な手法を業務手順として採用している。ビジネスの世界でも、合法と非合法の境界線があいまいになっている。
例えば、一部のヘッジファンドやミューチュアルファンドでは、企業の内部情報の収集を容認・奨励したり、問題のある金融商品を販売したりしていながら、顧客には自分たちの正当性をもっともらしく説明するといった手法が採られていた。
また、オンラインで商品を販売している企業は、アマゾンやイェルプなど商品のユーザーレビューが掲載されるサイトで、自社商品の評価を上げる工作を日常的に行っている。
「真実バイアス」が詐欺のターゲットに
こうした詐欺行為には共通点がある。人間の心の働きを利用していることだ。
私たちは、はっきりとそれを否定する証拠が示されない限り、見聞きしたものが本当だと思い込む。この現象は「真実バイアス」と呼ばれている。