2024年8月号掲載

新自由主義 ――その歴史的展開と現在

Original Title :A Brief History of Neoliberalism (2005年刊)

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著者紹介

概要

1970年代以降、英米から世界に広がった“新自由主義”。自由市場を信奉し、小さな政府や規制緩和を掲げるそれは、今、社会の格差を増大させる一因となっている。なぜ、このような思想が世界に浸透したのか? 政治経済の中枢を占める人々の思惑、そして新自由主義を各国に受け入れさせた手練手管を、歴史を辿り明らかにする。

要約

新自由主義へ向かう世界

 「新自由主義(ネオリベラリズム)」とはいかなる理論なのか。

 それは、「強力な私的所有権、自由市場、自由貿易を特徴とする制度的枠組みの範囲内で、個々人の企業活動の自由とその能力とが無制約に発揮されることによって、人類の富と福利が最も増大する」と主張する、政治経済的実践の理論である。

 この理論によれば、国家の役割はこうした実践にふさわしい制度的枠組みを創出し維持することである。例えば、国家は私的所有権を保護し、市場の適正な働きを保障するために、軍事的、警察的、法的な仕組みや機能をつくりあげなければならない。さらに、市場が存在しない場合(例えば教育、医療、社会保障、環境汚染などの領域)には、市場そのものを創出しなければならない。

 1970年代以降、政治・経済の実践と思想の両方において、旧来の枠組みから新自由主義への転換が至るところで生じた。その結果、今や新自由主義の唱道者たちが、メディアや企業、国家の重要諸機関(中央銀行等)、国際通貨基金(IMF)や世界貿易機構(WTO)といった国際機関の中でかなりの影響力をもつようになった。要するに、新自由主義は支配的な思想になったのである。

第二次世界大戦後の多種多様な国家形態

 ではなぜ、新自由主義への転換が生じたのか?

 第二次世界大戦後、国家体制や国際関係の再編が検討された。そこで意図されたのは、1930年代の大恐慌下で資本主義的秩序を脅かした破滅的な状況が再び起きるのを防ぐことだった。それはまた、戦争の原因となった国家間の地政学的対立が再び出現するのを防ぐことをも企図していた。

 当時の考えは次のようなものだった。

 ―― 粗野な資本主義と粗野な共産主義はともに失敗した。進むべき唯一の道は、平和、寛容、福祉、安定性を確保するために、国家、市場、民主主義制度の適切な混合体を構築することである。

 こうした多種多様な形態の国家は、すべて次のことを受け入れていた点で共通していた。

 すなわち、「国家は完全雇用、経済成長、市民の福祉を重視しなければならない」「国家権力はこれらの目的を達成するために、市場プロセスと歩調を合わせて自由に動員されなければならない」ということである。国家は積極的に産業政策に関与し、様々な福祉制度(医療や教育など)を構築することを求められた。