2024年11月号掲載

経験バイアス ときに経験は意思決定の敵となる

Original Title :The Myth of Experience (2020年刊)

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著者紹介

概要

「人生経験が豊かな人ほど、より優れた意思決定ができる」。そう思う人は多いのでは。しかし、経験に頼りすぎると、誤った教訓を引き出し、重要な情報に目が向かず、悲惨な結果を招きかねない、と指摘。経験の罠にはまるのはなぜか。では、どうすべきか。過去から正しく学び、より良い意思決定を行うための方法を指南する。

要約

人をあざむくストーリー

 あなたは自分の経験を信頼しているだろうか?

 大多数の人が信頼している。そして、自らの経験を基に意思決定を行っている。しかし残念ながら、経験に頼りすぎると、悲惨な結果を招くおそれがある。

経験をストーリー化する

 筆者らは講演などで、受講者に、次のような短いアニメーションフィルムを見てもらっている。

 画面上に静止した円が映し出される。そこに左から三角形が現れ、円の方に移動していく。画面中央で2つの図形が接触すると、三角形の動きが止まり、円は右へ移動を始め、画面の外に消える。

 その後、受講者に「この一連の出来事は何を表しているか?」と問いかける。すると、「三角形が円を画面から押し出した」など様々な反応が返ってくる。続いて「次にどんなことが起こるか?」と問うと、前の答えを土台にした回答が返ってくる。「四角形が現れて、三角形を押し出してしまう」「円がまた戻ってくる」…。

 こんな具合に、人間は経験をストーリー化し、それを基にこの先どうなるかを判断する。

 だが、このストーリー化の傾向は、深刻な問題を生み出してしまう危険性をはらんでいる。起こった出来事の受け止め方が歪んでいたり、フィルターがかけられたりすると、ストーリーが単純で、現実とはかけ離れたものになってしまうのだ。

クラスター錯覚

 現実は、目に見えているものだけがすべてとは限らない。例えば、円と三角形のストーリーでは、目に入ってこない図形が他にあるかもしれない。

 私たち人間は、実際には何も存在しないのに、そこにストーリーを見て取る、という危険を冒してしまうことになる。ランダムな事象に何か意味を見いだしてしまうことを、心理学では「クラスター錯覚」と呼ぶ。

 人間にとっては、体験を基にストーリーを作る方が、そうしないよりもはるかにたやすい。そして、複雑で不確実な状況に置かれた場合、いとも簡単に誤ったストーリーを作り上げ、それを信じ込み、それに基づいて行動し、さらにそれを他者に伝えかねない。また、ひとたび特定のストーリーにはまると、考え方を改めるのが難しくなる。

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