1996年3月号掲載
幸福論
Original Title :GLUCK
著者紹介
概要
スイスの哲学者、法学者、カール・ヒルティによる幸福論。原著は3巻から成り、第1巻は1891年に出版された。これが非常な好評を博して、第2巻以下が世に出るに至ったという。彼が熱心に読み、感化された書物が「聖書」ということもあって、本書では、キリスト教的信仰に立った幸福論が説かれる。豊かな見識と不動の信念に基づく、人生論の古典である。
要約
仕事
仕事の上手な仕方は、あらゆる技術の中で最も大切な技術である。というのは、この技術を一度正しく会得すれば、その他の一切の智的活動が極めて容易になるからである。
それなのに、正しい仕事の仕方を心得た人は少ない。むしろ、できるだけ少なく働くか、生涯の短い時間だけ働いて残りの人生を休息のうちに過ごそうというのが、一般の傾向である。
仕事と休息
働きと休息とは、一見両立しない対立物のように見えるが、果たしてそうだろうか。
休息を求めるのは、もとより人間の本性である。どんなに高尚な精神の人でも、絶え間なく努力することは願わない。
だが、休息とは、怠けることによって得られるのではなく、むしろ反対に、心身の適度な、秩序ある活動によってのみ得られるものである。
人間の本性は、働くようにできている。神は働くことを人間に命じたが、しかしまた、働きにともなう慰めをも与えてくださった。
だから、本当の休息は、活動の最中にのみある。
すなわちそれは、精神的には、仕事が着々とはかどり、課せられた任務がよく果たされていくのを見ることによって得られる。
また、肉体的には、毎夜の睡眠や毎日の食事など、自然に与えられる合い間の休みや、日曜日の休養の中に、真の休息は得られるのである。
こうした自然の休憩によって中断されるだけの、絶え間ない有益な活動の状態こそが、最上の幸福な状態なのである。
この世の最大の不幸者
さらに一歩を進めて、こう言うことができる。仕事の性質などは大した問題ではない、と。