2001年12月号掲載
スローなビジネスに帰れ eに踊らされた日本企業への処方箋
著者紹介
概要
「スローなビジネス」とは、「ゆっくり、地に足をつけて製品・サービスを創り、育て上げていく」ということ。アメリカ式の「スピード経営」の対極に位置するコンセプトである。ニューヨーク在住のマーケティングコンサルタントが、マーケティング偏重のアメリカ式ビジネスの問題点を指摘し、日本企業が同様の問題に陥らないための処方箋を示す。
要約
米国を襲う「3つの症候群」
日本企業の「ビジネスのお手本」は、間違いなくアメリカである。だが、そのアメリカは今、次の3つの症候群に悩まされている。
①ビジネスの本質を忘れた症候群
全てのビジネスは、「内容」「届け方」「顧客との関係性」という商売の3要素をバランスよく組み立てなければならない。
ところが今日のアメリカのビジネスを見ると、モノ、サービスの品質は地に落ち、何一つ、満足のいくものは見当たらない。
例えば、音だけは大きいが、吸引力の弱い掃除機。速球を1回打っただけで折れる野球バット。天井に電灯をつけ忘れた新築マンション。ウェブサイトで商品を注文した後に送られてきた「中身が空っぽの箱」…。
なぜ、このようなことになってしまったのか?
どんなビジネスであれ、商売の3要素のうち、まずは「内容」を最高品質にすることが基本である。だがアメリカ企業は、内容を軽んじ、「届け方」「顧客との関係性」といったマーケティングを偏重してきた。その結果、低品質の製品・サービスしか提供できなくなってしまったのである。
②パーティは終わった症候群
皆が大騒ぎした「ドットコムパーティ」は、2000年4月14日の株価下落をもって幕を閉じた。
ドットコム企業が失敗した要因は次の3点だ。
-
- ・思いつきのアイデアだけで商売ができると考えていた。
- ・多大な広告宣伝費に足元をすくわれた。
- ・商売の基本が押さえられていなかった。管理会計なら基礎として押さえておくべき「広告宣伝費の利益に対するバランス」すら、きちんと考えられていなかった。
③何でもインターネット症候群
「ニューエコノミー論」がインターネットへの期待を過剰に高め、「ビジネスの悩みはIT革命によって解決される」というムードが蔓延した。その結果、特に必要のないビジネスまでインターネットに経営資源を割く症候群が生まれた。
*
生物学では、原因を分析する際、「至近要因」と「究極要因」に分けて考えることがある。前者は、今起きている事象の直接の原因で、後者は、歴史や環境の長期的変化に基づいて考えた時に出てくる原因のことである。