2005年1月号掲載
シャープの「ストック型」経営 最強のモノづくりを支えるマネジメント
著者紹介
概要
継続的に業績が好調なシャープにスポットを当てて、「日本の強みを生かした経営=ストック型経営」の実際例を解説する。ストック型経営については、前著『最強の「ジャパンモデル」』(ダイヤモンド社)において詳細に解説している。
要約
「ストック型」経営とシャープ
この不況期にあっても、着々と業績を伸ばしているシャープ。その強さの要因は何か?
シャープは、流行の経営モデルを追わない。極めて日本的な企業文化の下で、将来を見据えてコツコツと事業を育ててきた。いわば、「ストック型」経営モデルの代表的な企業なのである。
ストック型経営モデルとは、将来の繁栄のために「見えない資産(技術、人材、風土、仕組み等)」を蓄える経営だ。
その逆の「フロー型」経営モデルは、短期的な収益ばかりに目を向けて、バランスシートに表れない見えない資産には関心を払わない経営である。
ストック型モデルでは、この見えない資産を蓄積し、それを社員が伝承し、組織学習によって進化させる。そのような企業は、他社が簡単には追随できない独自の強さを持つようになる。
ストック型経営モデルの特徴は、次の8点だ。
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- ①問題解決の先送りをしない
- ②個人的な能力に依存せず、システムとしての競争優位を確立する
- ③規模拡大・シェア拡大を重視しない
- ④短期環境変化に対して安定的な企業システム
- ⑤環境の構造変化に適応する企業システム
- ⑥本業重視
- ⑦社員重視の経営風土と学習する組織
- ⑧経営理念の浸透と継承
経営理念とリーダーシップの継承
シャープに成功をもたらした重要な要素は、企業とともに成長した「ストック」である。
これは、創業者の理念やそれを受け継いだリーダーの姿勢、社員の努力により、組織学習を経て形成される。
いたずらに規模のみを追わない
シャープの経営理念は、「いたずらに規模のみを追わず」という一節で始まる。規模の拡大を犠牲にしてでも、絶えず企業内部に技術力や人材を蓄積すべきとの戒めである。
こうした経営理念は、時として企業の意思決定に重要な役割を果たす。
例えば同社は、1970年、地元大阪万博へのパビリオン出展を断念して、代わりに奈良県に研究所などを建設した。当時、電卓用に輸入していたLSI(大規模集積回路)の自社開発に投資する方が、将来の発展に寄与するという判断である。