2005年1月号掲載
ジハードとテロリズム 日本人が知らないイスラムの掟
- 著者
- 出版社
- 発行日2004年11月29日
- 定価792円
- ページ数227ページ
※『TOPPOINT』にお申し込みいただき「月刊誌会員」にご登録いただくと、ご利用いただけます。
※最新号以前に掲載の要約をご覧いただくには、別途「月刊誌プラス会員」のお申し込みが必要です。
著者紹介
概要
9・11同時多発テロ以降、イスラム世界に関する本が多数出版されている。だが、それら一般的な紹介本とは、少々趣を異にするのが本書だ。イスラム世界で長く当地の人々と本音で接してきた著者が、いわば“皮膚感覚”で、イスラムの人々の考え、世界を描き出す。イスラム原理主義者によるテロリズムの背景にあるものを、一歩突っ込んだ形で教えてくれる1冊だ。
要約
なぜ、テロが起こるのか?
イスラム世界では、なぜテロが起こるのか?
その原因は、次の4つに分類することができる。
① イスラム領域の占領への抵抗と権利回復
最もよく知られた事例が、パレスチナ問題である。イスラエルは西エルサレムばかりか、パレスチナ人が将来樹立しようとしているパレスチナ国家の首都と考えている東エルサレムでも軍事占領を続けてきた。イスラム教の聖地の1つ、エルサレムがイスラエルによって占領されるということは、イスラム教徒にすれば許しがたい問題である。
② イスラム教と文化への破壊行為に対する抵抗
例えば、エジプトでの観光客に対する攻撃がある。欧州からの観光客の女性がトップレスで日光浴をする —— こうした行為を、イスラム教徒の慣習と宗教に対する冒涜と考えるのは、イスラム原理主義者に限られたことではない。
③ イスラム教徒への不平等に対する抵抗
フランスの学校でイスラム教徒の女子学生にスカーフを禁止したり、水泳の授業を受けさせようとしたが、こうしたことは、イスラム教徒には差別とうつる。その結果、暴力によって抵抗しようとする者が現れることになる。
④ 宗教に対する冒涜、弾圧、差別への抵抗
トルコは長い間EU(欧州連合)加盟を希望しているが、実現は容易ではない。欧州諸国、中でもドイツにおけるトルコ人移住者の増大が、重大な社会問題となっているためだ。トルコ人排斥の動きは欧州各国で生じており、それに対するイスラム教徒の抵抗を生み出している。
このように、イスラム教徒によるテロを分類してみると、場合によっては、文化や宗教、生命防衛に関する正当な戦いであるとも考えられる。
イスラム原理主義者というと、狂信的な人々のイメージがあるが、そうではない。社会的に高い地位にある穏健な人の中にも、イスラム原理主義的考えを持つ人が多数いる。彼らの多くは、イスラム原理主義者たちによるテロの発生原因は、外国が作り出したものだと強い憤りを感じている。
また、ソ連崩壊後のアメリカの世界支配に向けた傲慢な動きが、彼らの欧米文化に対する反発に拍車をかけている。湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争と、その後のアメリカの対中東イスラム世界政策に対する不満は、イスラム原理主義者に限らず、広くイスラム教徒の間に広がっている。
一方、イスラム国家にも、テロリズムを生み出す背景がある。
イスラム世界では、国家とは名ばかりで、部族長による支配が国家規模になっているだけの国が多い。例えば、比較的近代国家の体をなしていたイラクでさえも、バース党という世俗主義的な社会主義制度による支配ということになってはいるが、現実はサダム・フセインの血縁関係者で体制が固められていた。そのため、他部族、他地方の出身者には差別が生じる。その差別をなくすには、権力を倒す以外にない。