2005年9月号掲載
年寄りの話はなぜ長いのか
著者紹介
概要
年をとると、なぜくどくどと同じ話を繰り返すのか。他人の意見に耳を傾けず、頑固になったり、判断を誤りやすくなるのか…。誰もが避けて通れないこの“壁”の原因は、「脳の老化」にある。本書では、生理学の専門家である著者が、脳の仕組み、老化について語り、脳を若々しく保つ秘訣を紹介する。その原因を知っておくだけでも、転ばぬ先の杖となるだろう。
要約
年寄りの話はなぜ長いのか?
人は年をとると、なぜ話が長くなるのか? これには、脳の仕組みや、その老化の仕方が深く関わっている。年齢とともに話が長くなることについて、脳科学からは次のような理由が考えられる。
- ① 話すことの優先順位がつけられず、どれも大事で欠かせない内容だと思ってしまう。
- ② 相手の身になって考えられないので、話す内容が多いほど、相手は得るところが多いと考える。
- ③ 年齢とともに自分の体力、能力に自信がなくなるので、その不安に気づかれないで周囲の人の尊敬・信用を確保・維持させたいと思い、思いついたことを何でも話してしまう。
年をとると、昔できたことができなくなる、新しい技術を覚えるのに時間がかかる、といった事態が日々起こる。
例えば、自分のパソコンに問題が生じると、すぐに若者を呼んで直してもらう。このようなことが続くと、「若者は自分を無能だと思っているのではないか」という気持ちが頭をもたげる。
こうなると、何とか「自分は若者が持たない重要なものを持っている」ことを周囲に伝え、自分の価値を納得しようとする。つまり、長話は老化への不安の裏返しともいえるのである。
- ④ 話している間に、今まで何をどこまで話したかを忘れて、同じような話を続けてしまう。
これは、「作業記憶」の衰えだ。作業記憶とは、ちょうど黒板に文章を書き、説明が終わると消して新しい文章を書く時に使う記憶である。
例えば、「私は今日学校に行きました」と話す時、「私は」と言う時には、次の「今日」を思い出している。同時に、「私は」という言葉は忘れる方向に向かう。
こうして、前の記憶に次の記憶が置き換わるのだが、この時、前の記憶は完全に忘れられているわけではない。一時的に維持される記憶によりある程度覚えていながら、次の言葉につながるのだ。
この作業記憶は、年齢とともに、または訓練をしない限り衰える。すると、話している最中に、何をどこまで話したのか思い出せなくなる。
そのよい例が、話の途中にたとえ話や思い出話を入れて、話を印象的にしようとする場合だ。思い出話が終わった時に、それまで何を話していたのかわからなくなった経験はないだろうか。
このように、何を話していたかわからなくなるために、話題が元の主題から離れていくことはよくある。その結果、聞き手は「なぜこんな関係のないことをくどくど話すのか」と思うのだ。
- ⑤ 地位の高い人は「もう一歩」という気持ちが強い。もう一歩の支配権獲得を求める。
この場合の支配権とは、仲間、組織を自分が支配しているという自覚を持ちたい、という意識のこと。すでに十分支配しているのに、自分ではまだまだと思う。そして、その支配を確実にするために自分の思うことを話し、相手がそれでも聞いていることを確認したいのである。