2005年11月号掲載
中国が世界標準を握る日
著者紹介
概要
多くの日本人が、中国企業は日本より技術水準も低く、日本製品の模倣品を作っている、と思っている。だが、そんな中国がいつの間にか日本の先を行き、日本企業が中国の決めた国際標準規格に従わざるを得ないとしたら…。実は今、それが現実になろうとしている。巨大な市場を抱える中国が、技術面でも世界の主導権を握ろうと、本気で動いている!
要約
中国・独自規格を策定せよ!
中国の家電量販店では、DVDそっくりのデッキ —— EVDデッキが販売されている。
EVDは中国政府の指導のもと、国内の家電大手2社が共同開発したものだ。DVDと同じ記録容量で高解像度の映像収録が可能である。当初は大幅な普及は疑問視されていたが、その後、ソフトの質・量の充実に伴い、順調に売上を伸ばしている。
このEVDは、次世代DVD規格として中国の国家標準となっている。すでに関連する音声や版権保護など7つの技術で特許を取り、独自規格を国際標準にするよう国際電気標準会議に申請した。
このように中国は現在、様々な独自規格を策定し始めている。その背景には、中国企業による知的財産権の侵害に対する各国政府・企業の対応が厳しくなり、特許使用料の支払いが急増していることがある。
世界最大のDVD生産国である中国は、世界で最もDVDのライセンス料を支払っている。その額は1台当たり13.8ドルともいわれ、また、日米欧を中心とした家電メーカーに、すでに500億円を超える特許使用料を支払ったともいわれている。
同じようなことを繰り返していれば、一方的に特許侵害で訴えられ、使用料を払い続けなければならない —— そう痛感した中国政府は、科学技術政策の基本方針を大きく転換した。
それに基づいて、「自前の技術を持たなければ海外企業を利するだけ」という危機感が高まり、現在、独自規格の開発は国家の威信をかけた重点目標になっているのである。
中国が狙う技術標準
躍進めざましい中国では、携帯電話が大ブームを呼んでいる。加入数は2004年末で3億3000万件に達し、毎月平均550万件ずつ増えている。
そのため中国政府は、携帯電話でも技術標準の獲得を狙っている。実際、第3世代(3G)携帯ではすでに標準を獲っている。
また、無線LANでも独自規格を作ろうとしている。無線LANは、電波を利用した通信網だから、傍受・盗聴の危険性が高い。そのため、情報を暗号化して送信する技術が組み込まれており、現在、「Wi-Fi」という規格が事実上の国際標準になっている。
ところが、中国政府は03年、自主開発の暗号化技術を利用した「WAPI」という規格を策定した。そして、同年6月からWAPIに準拠しない製品の輸入・販売を全面禁止にする他、海外企業がWAPIに準拠した製品を作る場合は、ライセンス料を支払うよう義務づける方針を明らかにした。