2006年5月号掲載
食がわかれば世界経済がわかる
著者紹介
概要
今、マックやコーラの売上が低迷し、日本食が世界的ブームとなっている。こうした食の世界を見ることで、近代西欧文明の問題点が浮かび上がり、文明の西から東への動き、「リ・オリエント」現象が見える ―― 。“ミスター円”こと榊原英資氏が、「食」という視点から人類の歴史や文化、そして世界経済のパラダイムシフトを解き明かしたユニークな1冊。
要約
「食」は、経済の中心である!
現在、世界の大国は例外なく、農業と「食」を重視している。米国は世界唯一の超大国だが、同時に世界有数の農業国でもある。中国にしても、最も重視しているのは農村・農業問題である。
産業革命以前の世界では、貿易の中心は食品だった。それによる利益を求めて、諸国の海外への進出や、それに伴う戦いが起こった。
食は人類の文化の基本であり、経済の中心であり、人類の歴史の流れをも作ってきたのだ。
* * *
英国と米国は、世界経済を200年近くにわたって支配してきた。
英国が超大国になったのは、産業革命により優れた工業製品を大量に生産できたからだ。しかし、それが全てではない。
産業革命以前から大英帝国に多くの富をもたらし、産業革命後も極めて重要な収入源であり続けたものがある。それが食だ。
英国はアジア、アメリカ大陸などを植民地化することによって、食材の生産・流通を支配し、その交易によって莫大な富を蓄積していったのだ。
米国が世界経済のヘゲモニーを握っていった理由も、やはり食糧生産という要素を抜きには語れない。1920年代、米国経済が飛躍的に成長する呼び水となったのは農業である。
30年代以降、世界は本格的な工業化時代を迎えるが、米国はその工業力を農業に投入、大量生産・大量販売という手法によって食を“工業化”し、世界の食糧市場を支配することになる。
ハンバーガーに代表されるファストフード、コーラ等の炭酸飲料水、ブロイラーなど家畜の大量生産の仕組み、スーパーマーケットという大量販売の小売システム…。こうしたものを作り出し、食の生産現場から流通に至るまで、大量生産・大量消費システムで塗りつぶしていったのだ。