2007年9月号掲載
幼児化する日本社会 拝金主義と反知性主義
著者紹介
概要
今の日本には、将来を憂えずにはいられないような出来事が続発している。深刻化する子供のいじめ問題、企業モラルの低下、テレビ番組の低俗化…。こうした事象の背景にあるのが、日本人全体の思考の退化であり、「幼児化」である! こう指摘する著者が、家庭や教育、企業、マスメディアなど様々な現場で生じている崩壊の予兆を具体的に挙げ、警鐘を鳴らす。
要約
子供の世界は大人の鏡
現在、日本経済は戦後最長の景気拡大を継続している。しかし今はいいとしても、10年先、20年先の日本の未来は決して明るいとは言えない。
なぜなら、日本社会の様々な局面で、屋台骨が急速に崩れつつある兆候が見られるからだ —— 。
急速に広まった弱肉強食の論理
小中学生のいじめによる自殺、親殺しなど、子供にまつわる異常な事件が続いている。
子供の世界は大人の世界を映す。子供の世界がおかしいということは、実は大人の世界で何か異常な事態が起こっているということである。
では、一体何が起こっているのか?
今日、世界経済は大きな転換期にさしかかっている。産業資本主義からポスト産業資本主義への移行だと言われているが、価値観やシステムが大きく変わりつつある。
新しい時代の特色の1つは、技術や知識が急速に進展し、競争が激化していることだ。企業はそうした変化に対応して利益至上主義に傾き、拝金主義と弱肉強食が当然のように受け入れられている。つまり、弱者がいじめられるという構図が大人の社会で顕著になってきたのである。
もう1つの特色は、情報産業の急速な進展による社会の大衆化だ。テレビ、インターネット、携帯電話が浸透し、大衆を対象とするマスメディアが急速にその力を増している。
問題は、マスメディアが抑制のきかない権力と化し、結果として「いじめ」の先頭に立って、弱肉強食の世界を拡大してしまっていることだ。
例えば、テレビの報道やワイドショーは典型的ないじめの構造を持つようになった。
もともと報道というのは事実を客観的に伝えるものだが、いつしかキャスターやコメンテーターが主観的意見を差し挟み、問題を起こした人を過度に糾弾するようになった。大衆の感情をうまくつかみ、一方的に悪人を作り出し、それを叩くことで、ある種の爽快感を与えるというわけだ。