2007年11月号掲載
日本の人口は減らない 医師の論理で導く「新・人口論」
著者紹介
概要
今、先進国では人口の減少が問題になっている。わが国もまた例外ではなく、様々な少子化対策が講じられている。だが、日本の人口は、本当にこのまま減少し続けるのだろうか? 本書では、医師である著者が、ヒトの自己保存本能と種の保存本能から仮説を導き出し、論理的に「人口減少説」を覆す。生物学的、医学的な視点から展開される論理に納得の1冊である。
要約
出生率の予測が当たらない理由
日本の人口が長期にわたって減少すると言われている。だが、それは本当だろうか?
人口の動向については、これまで政府機関やシンクタンクが「出生率」を予測し、発表してきた。しかし、その予測はことごとく外れている。
予測が当たらない主な理由は、次の3つである。
①平均寿命の延びが考慮されていない
現行の予測方法には、「平均寿命の延びが出生率を抑える」という観点が完全に欠落している。
例えば、平均寿命が70歳から80歳に伸びたとする。長生きすればその分、追加の生活費が要る。それが、養育できる子供の数を減らす方向に働く。
また、平均寿命が伸びている社会では、乳幼児の死亡率が低下するから、たいていの子供が成人する。すると、昔ほど多くの子供を産まなくても後継ぎに困ることはないと考える人が増える。このことも、やはり出生数を抑える要因になる。
このように、高齢者が長生きすること、多くの子供が成人できることの2点から、平均寿命の延びは出生率を抑える可能性が高い。だが、現在の少子化の議論にはそうした観点が全く見られない。
②GDPやCPIの変化率が考慮されていない
現在の議論では、少子化の原因として子供の養育費や教育費などは考慮されているが、国内総生産(GDP)や消費者物価指数(CPI)の変化率までは考慮されていない。
上述のように高齢化が進めば、その分だけ追加の生活費が発生する。それを補えるだけ収入が増えればよいが、近年では、勤めている会社の業績が悪いために、親の収入は増えていない。そんな状況の中で、子供の教育を重視するとなれば、子供の数を減らすしかない。
ゆえに出生数は、GDPの影響を受けている可能性が高いといえる。
また、収入が伸びない中においては、生活のための商品やサービスの値段を社会全体で集計したCPIが、各家庭の購買力に強い影響を与える。