2010年7月号掲載
帝王学の教科書 リーダー英才教育の基本
著者紹介
概要
組織のリーダーに必要な条件は何か。これを様々な角度から追求する学問が「帝王学」である。中国の古典は、この帝王学の宝庫といえ、例えば『貞観政要』などは古来より中国、日本で帝王学のテキストとして珍重されてきた。本書では、同書をはじめ『孫子』『三国志』等々を、中国古典研究の重鎮・守屋洋氏が紐解き、人と組織を動かすための極意を解説する。
要約
『貞観政要』のリーダー像
中国の古典は、帝王学の宝庫である。例えば、『貞観政要』などは昔から、中国でも日本でも、帝王学のテキストとして珍重されてきた。
「貞観」とは、唐の太宗の治世の年号で23年続き、この間、稀に見る立派な政治が行われた。
『貞観政要』では、この「貞観の治」のような理想的な政治がどうしてもたらされたのか、その秘密が解き明かされている ―― 。
緊張感を持つ
トップの心構え。その第1は、絶えず緊張感を持続させるということだ。業績が好調な時こそ、一層気持ちを引き締めよ、と『貞観政要』は説く。
ある時、太宗が重臣たちに尋ねた。「国を維持することは、困難であろうか、容易であろうか」。
すると、側近の魏徴が「極めて困難であります」と答え、こう続けた。
「国の基盤が固まってしまえば、必ず心にゆるみが生じてきます。そうなると、臣下もわが身第一に心得て、君主に過ちがあっても、あえて諫めようとしません。こうして国勢は日ごとに下降線をたどり、ついには滅亡に至るのです。昔から立派な為政者が『安きに居りて危うきを思う』のは、そのためであります。国が安泰な時にこそ、心を引き締めて政治にあたらなければなりません」
率先垂範
トップが部下に対して指導力を発揮するためには、まず、自らの身を正さなければならない。
『貞観政要』に、こんな話が記録されている。
ある時、太宗が側近の者を集めて語った。
「わしはこう聞いている。『周も秦も、天下を手中に収めた当初は同じだったが、それから後が違っていた。周はひたすら善を行い、徳を積み重ねた。それが800年の長きにわたって存続した理由である。ところが秦は、贅沢三昧にふけり、刑罰をもって民に臨んだ結果、わずか2代で滅びた』と。まことに善を行う者の幸せは長く、悪を行う者の寿命は短い」