2011年10月号掲載
余震 そして中間層がいなくなる
Original Title :AFTERSHOCK
著者紹介
概要
クリントン政権時代の労働長官であり、オバマ大統領のアドバイザーも務めたロバート・B・ライシュが、米経済の現状に切り込んだ。一部の富裕層に富が集中し、中間層は正当な分け前にあずかれない。その格差の背後にあるものを抉り出すとともに、中間層に繁栄を取り戻すために実施すべき政策について提言する。今後の資本主義のあるべき姿を模索した労作。
要約
歴史は繰り返す
経済の政策決定において世界で最も影響力を持つといわれる米国連邦準備制度理事会は、ワシントンDCにあるエクルズ・ビルを本拠としている。
そのビルの名前は、1934年から48年まで同理事会の議長を務めたマリナー・エクルズにちなむ。
エクルズは今日ではほとんど忘れ去られているが、1929年の大恐慌の要因を分析した人物である。
26の銀行を束ねる金融持株会社を率いていた彼は、大恐慌の後、連邦政府の仕事に関わり、米国経済の舵取りに当たった。
そして50年、引退して回顧録を書き、大恐慌の主因は「富の偏在」だと結論づけた。
彼は、次のように語る。
―― 1929~30年頃まで巨大な吸引ポンプが作動して、生成された富の多くが一握りの富裕層の手へと吸い上げられてしまった。その結果、大衆消費者の購買力は減退し、資本家たちは自らの生産物への有効需要を自ら打ち消すことになった。
2つの恐慌の類似性
このエクルズの洞察は、最近どこかで聞いたことのあるような内容だが、それは偶然ではない。公式には2007年12月に始まったとされる今回の「大不況」と大恐慌は密接に関連しているからだ。
米国の労働者の平均賃金は08年のリーマンショックまでの30年間、インフレを考慮するとほぼ横ばいで、2000年代にはむしろ低下している。
しかし、07年の米国経済は30年前よりずっと規模が大きい。もし、この間の所得増が国民全体に平等に分配されていたなら、米国人の平均的生活水準は、07年の現実の水準よりも6割以上向上していたはずである。
では、増えたこの所得分はどこに行ったのか。前世紀の大恐慌に至るまでの数年間と同じく、富裕層に向かったのである。