2012年5月号掲載
震災復興 欺瞞の構図
著者紹介
概要
東日本大震災からの復興には巨額の費用がかかるから、増税もやむなし。多くの人はそう考えている。だが実は、政府のいう19~23兆円もの巨額の復興費は不要! こう喝破するエコノミストが、震災復興のあり方を問う。様々なデータに基づき、巨額の復興費に見え隠れする政治家や官僚の思惑を暴き出すとともに、住民に役立つ安上がりで効果的な復興策を提言する。
要約
大増税の口実に使われる大震災
東日本大震災の復興のためには19~23兆円の予算が必要で、それを賄うために10.5兆円の増税が必要だ、と政府は考えている。
多くの日本人もそう考えているらしい。震災復興の費用を次世代の負担にしてはならないから、増税によって賄わなければならない。それが未来に対して責任ある態度だと議論する人が多い。
しかし、そのような議論は全くの誤りである。日本人は騙されているとしか言いようがない。
物的資産毀損額16.9兆円説の誤り
内閣府は、2011年3月23日に、東日本大震災における物的資産の毀損額を、仮の数字として16~25兆円と発表した。その後、約16.9兆円と推計し直したが、詳細な根拠は何もない。
この金額から出発して、19~23兆円の復興予算が必要で、そのために大幅な増税が必要だという議論になっているのだが、そもそも16.9兆円も壊れているはずがない。
よって、巨額の復興費も要らない。
実際の復興費用は、4兆円?
被害の大きかった福島、宮城、岩手でも、内陸部に入れば被害は限られている。
この3県の、津波による浸水地域の人口は51万人である。この中には床下浸水地域の人口も含まれているので、自宅に住めないような深刻な被害に遭われた方は50万人程度だろう。
一方、日本全体の工場や住宅、道路などの物的資産(土地は含まない)の額は1237兆円である。日本の人口は1億2806万人なので、1人当たり966万円の資産を持っていることになる。
従って、東北3県で破壊された物的資産は、966万円に50万人を掛けた4.8兆円程度ではないか。これを少し多めにして6兆円としよう。
日本全体の物的資産のうち、民間の資産と公共の資産の比は2対1なので、破壊された民間資産は4兆円、公的資産は2兆円ということになる。